【中小企業向け】DXに使えるツールの種類と選び方
会社のDXをしていく上で、ツールないしアプリケーションというのは欠かすことのできない要素です。
一昔前の日本では、大企業がフルスクラッチで自社向けのシステムを開発する、みたいなのが主流だったようですが、今はSaas系の完成度の高いツールがごまんとあり、私たち中小企業にも手が届く時代。
むしろ、身軽な分大企業よりも有利かもしれません。
うまく使いこなして、どこにも負けないDXを実現しましょう!
この記事を読めば、世の中の企業がどんなツールでDXをしているのか全体像がつかめます。
また、限られたリソースの中でどういう優先順位で、どうツールを選んで、なにに気をつけて導入していけばいいのかがわかり、致命的な失敗を避けられるようになるはずです。
注意:いきなりツール導入からのDXはハイリスク!
いきなりなにをいってるにゃ…
出鼻をくじかれるとはこのことにゃ。
これは、DXを始めよう!と思ってこの記事を読んでいる方向けの注意点です。自社のDXの可能性を広げようとワクワクしているところに水をさしてしまい恐縮ですが、大事なことなので繰り返します。
いきなりツール導入からのDXはハイリスクです。
なぜなら、「新しいツール」を入れるようなDXは、最初の一手としては変化が大きすぎるからです。
うまくいった場合はいいものの、最悪の場合はDXに対するアレルギーを引き起こし、その後の様々なDXの計画に大きな支障をきたします。また、DX戦略が定まっていない状態で下手にツールを導入すると、後から大変な手戻りが発生するのも大きな理由です。
もちろん、業務プロセスに大きな変化を引き起こさないもの、あるいは選択的に利用可能なものであればOKなのですが、この記事で挙げられるようなメジャーなツールは効果が大きい分、変化も大きいです。
最初はできれば
- 既存のオペレーションで使っているツールを効率的に利用できるようにする
- ツールを使うための社内ルールを導入する
- 基礎的なIT研修を行う
など、多くの中小企業ではこうしたところから始めつつ、会社のDXへの適応状況を把握し、戦略を固めていくようにしたほうがいいです。
詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
さて、それでは気を取り直して、DXに役立つどんなツールがあるのか大まかに見ていきましょう。
最低限無いとまずいツール(コミュニケーション・マネジメント関連のツール)
まずは、最低限ないとまずいツールの種類から見ていきましょう。ここで紹介するのは、コミュニケーション・マネジメント関連のツールです。
会社は人の集まりです。会社へのインパクトを考えても、DXを推進していくためにも、コミュニケーションやマネジメントに関連するツールの重要性は最も高いからです。
プロジェクト管理ツール
オンラインでプロジェクトやタスクを作成でき、メンバーの割り当てや進捗状況の確認などが可能なツールです。
社内のプロジェクトを管理するだけでなく、個々人のタスク管理にも繋がるため、究極的にはセルフマネジメントから会社全体のマネジメントにまでつながる可能性を秘めています。
業務に関するコミュニケーションもこのツール上で行われるため、すべてのスタッフが常に開いておくべき、核となるツールであると言えるでしょう。
ちなみに、DXを進めていく上での最大の障害がマネジメントです。すべてのスタッフが既存の業務に加えてDX関連の業務(研修や業務プロセス改善含む)に取り組むことになるので、ほぼ間違いなくマルチタスクになるからです。
プロジェクト管理ツールを導入し、使いこなし、個々のスタッフから会社全体までマネジメントが行き届く状態を作り出すことが、DX推進において、そして会社を成長させる上でも、最も重要であると言えます。
おすすめ:Asana
有名ツール:Trello, Backlog, Jiraなど
特に私がおすすめしているプロジェクト管理ツールはAsanaです。チーム単独でしか使わないなら競合はたくさんありますが、将来的に全社で導入する可能性があるなら一番ですね。解説記事を書いたので、よければご覧ください。
オフィススイート/コラボレーションツール
非常にたくさんの機能があるので一言で言い表すのが難しいのですが、本質的にはその名の通り社内での「コラボレーション」、つまり複数人で協力して仕事を進めていくことを可能にするためのツールです。
具体的に言えば、「Google Workspace」とか「Microsoft 365」とかのことです。
メール、カレンダー、ストレージ、オフィス系ツールなどを中心に、様々な機能がまとめられて提供されています。
リモート全盛のこの時代においては、昔のようなオフラインでのドキュメント管理→メールとかで共有みたいなやり方はあまりに非効率ですし、セキュリティ面でもリスクが高いです。権限制御や集中管理ができませんからね。
無料版でなんとか使う!という会社さんも多くいらっしゃると思いますが、管理コストの大きさや効率性を高めることを考えると、最低限のプランの有料版でいいので契約したほうがいいと思います。
おすすめ:Google WorkspaceMicrosoftのOfficeがどうしても必要なら:Microsoft 365
後述のTeamsで課金したいという場合は365でも悪くありませんが、
社内コミュニケーションツール(ビジネスチャット/ビデオ会議)
基本的にはプロジェクト管理ツールやコラボレーションツールでコミュニケーションしたほうが効率的ですが、それだけでは不足してしまう「コミュニケーション」を補うためのツールです。
チャットとビデオ会議のツールがありますが、できれば分けずにまとめてしまったほうがいいでしょう。
会議や雑談、緊急性が求められる報告などを目的に利用されることが多いです。
まとめて利用するなら:Microsoft Teams(スカイプでもいいですが、MicrosoftとしてはTeamsに移行するようです)無料でもOK。
チャットのみ:Slack(無料版は履歴残らないのでNGです)ビデオ会議のみ:Google Meet、Zoom
業態によって合わせて検討すべきツール
社内のマネジメント・コミュニケーションの基本的な部分が固まったら、次は社内の中核業務の改善です。
CRM/SFA
CRMはCustomer Relationship Managementの略。一言で言えば顧客管理システム。
SFAはSales Force Automationの略です。こっちは営業支援システムですね。
通常、CRMにはSFAの機能が含まれます。現在ではSFA単体というより、基本的にはCRMを入れることになると思います。
見込み客のリストから、商談内容、顧客とのやり取り、契約内容など、顧客に関するほぼあらゆる情報を管理し、メールや見積書の作成、重要案件の抽出など、そこにまつわる様々な業務プロセスを自動化することができます。
また、多くの中小企業では、このCRMをベースに売上や粗利を計算しつつ、取引内容などから会社の状態を把握し、プロジェクト管理ツールと合わせて日々の経営判断やマネジメントをしていくことになる重要なツールです。
おすすめ:Salesforce(SalesCloud)競合:Kintone(のSFAパック),Microsoft dynamics 365
KintoneとSalesforceには値段に10倍ほどの開きがありますが、それでも費用対効果考えるとSalesforceの方がおすすめです。
MA
MAはMarketing Automationの略。要するに、マーケティング系の業務の自動化ですね。
顧客リストに対するステップメッセージ(メール,LINE,SMSなど)やそのABテスト、それに対する顧客の反応に応じたシナリオ分岐、リストの切り分け、営業へのアラートなどがよく使われる機能です。
正直なところ、最低限のMA機能はCRMにもついているので、それ以上の機能がどうしても必要だ、という状況になったら選定することをおすすめします。
現時点においては、MAツールの運用にはマーケティング及びシステム両方のセンスが要求されるのでご注意ください。
また、選定の際は、顧客データの一元管理を前提に、CRMとの連携を重視してください。
おすすめ:Salesforce(Pardot、Marketing Cloud)
有名ツール:Satori,b-dash,Kairos, HubSpot
生産管理
そもそも生産管理とは、品質(Quality)、原価(Cost)、納期(Delivery)のQCDを最適化することです。
生産管理システムでは、このQCDを最適化するために、納期、在庫、工程、原価などの情報を一元管理します。
当然ながら、製造業などでは中核を担うシステムになります。
有名ツール:WorkGear、i-PROERP、TECHSシリーズ など
次に挙げる、ERPにしばしば含まれる機能なので、ERPとともに導入されることも。
ERP
ERPとは、Enterprise Resource Managementの略です。
要するに、社内のリソース(ヒト、モノ、カネ、情報など)を管理するためのものです。
主に、人事、会計、販売、生産などを対象にした機能があり、導入することで、社内の主だった情報を一元管理でき、部門間の連携や経営判断がスムーズになります。中には前述のCRMを含んでいるものもあったりと、超巨大なツールだけに様々な組み合わせがあります。
たとえばCRMだけ見ていても、どれくらい経費がかかっていて最終的にどのくらい利益が残っているのかはわかりませんね。生産管理ツールだけ見ていても同じです。ここに、人事や会計などの機能を追加することで、会社全体の状況を把握一つのシステムですることができるようになるというわけです。
もともとは大企業向けで数千万円規模~の予算感でしか導入できなかったのですが、最近はクラウドベースで低価格な中小企業向けのものも出てきているという感じですね。
私が社会人になって始めて働いたのもこのERPを作ってる会社でした。その割にあまり詳しくないです。笑
汎用型ですべてのリソースを一元管理できるタイプは基本的にはかなり大掛かりな導入作業になることが多く、導入難易度もかなり高めです。それでも、システム担当者としてはある種の理想ではありますね。個人的には、ひとりDXをやっているような状態の会社で導入するのか結構きついんじゃないかなぁというのが本音です。
人事・会計特化:マネーフォーワードクラウドERP、クラウドERP freee
販売・生産管理含む汎用型:SAP Business ByDesing, Oracle Netsuite この二社は超老舗ですね。
この他、特定業種向けの様々なERPがあります。
必要になったタイミングで入れていきたいツール
最後に、中小企業にとってそこまで優先順位は高くありませんが、必要に応じて使っていきたいツール群を紹介します。
Web接客
というかまぁ現時点ではほぼチャットボットですね。
顧客からの単純な問い合わせに対する回答を毎度電話やメールで行ってしまうと、膨大な工数がかかってしまいます。これを自動応答のチャットボットや自動音声対応などに置き換えれば、その膨大な工数を削減できますね。
現状、基本的には質問の選択肢を出して決められた回答を返すものや、キーワードと応答に関するデータセットを揃えてAIに学習させ、多少は柔軟な対応ができるものなどがあります。
音声対応では、WATS○Nなんかが有名ですね。まぁ私たちは今の所チャットボットが限界でしょうけど。
コストを抑えたいなら、まずはFAQなどをわかりやすいところに設置してみた上で、あまり効果がなければチャットボットなどを導入するのがいいでしょう。
これは、MAツールとしても運用可能ですし、既存顧客への対応自動化としても運用可能です。
AI型:AI Messenger Chatbot, COTOHA Chat&FAQなど
プログラム型:Zendesk, チャットプラスなど
その他、業種限定のものなどもあるようです。
カスタマーサポートアプリ
特にサービス系の業種の場合、顧客と継続的にコミュニケーションを取り続けていかなければならないような事象はしばしば発生します。
自社のDB内にある顧客の契約情報を表示したり、顧客側から様々な情報を入力してもらったりと、かなりのデータのやり取りがあり、これをCRMに連携した専用のシステムで行いたいというのは非常にまっとうなニーズです。
また、BtoCの店舗型ビジネスの場合は、会員カードやポイントなどの延長で、顧客とのリレーション強化が課題になります。
こうした「顧客とのやりとり」に対応するようなツールも最近はかなり増えてきています。
チャットボットでもある程度対応できますが、いくつか種類に分けて紹介しておきます。
チャットの延長:LINE公式アカウントベースで画面を開発
店舗アプリ:GMOおみせアプリ、UPLINKなど
その他:Salesforce Community Cloud、Yappliなど
LINE公式アカウントはかんたんですがとにかくCRM同期が大変。
店舗アプリはドラッグ&ドロップに近い操作感で、店舗ビジネス用のアプリに必要な機能を実装できます。
SalesforceのCommunity CloudはSalesforceを中心に顧客とのやり取りをするアプリを構築できます。
Yappliなどのローコード/ノーコードアプリ開発ツールも最近は徐々にメジャーになってきていますね。
EC
ビジネスモデル自体を変えるようなDXとして、最もわかりやすいのがECでしょう。特にここ数年で必要に迫られている会社さんも多いと思います。
ECは元来、かなりのコストをかけて構築するものですが、最近は手軽にECサイトを構築でき、かつCRMとも連携できるようなものが増えてきています。
※ECサイトでCRM連携できないのとデータ管理コストが大変なことになります。
通常の場合、決済周りの設定をして、商品を登録するだけでECとして機能します。手軽な時代になりました。
有名ツール:Stores.jp, Shopify, Base など
採用管理
求人、応募者、選考などの業務を管理するためのものです。
正直、数十人規模の会社であれば、プロジェクト管理ツールが機能していればだいたいなんとかなります。
とはいえ、面接に呼ぶ人数が数百人とかという規模になってくるとさすがに徐々に辛くなってくるので、そのあたりになってきたら検討してみてもいいのではないでしょうか。
有名ツール:ジョブカン採用管理, 採用一括かんりくん
勤怠管理
勤怠を管理するためのものです。
出勤・退勤などの打刻や、残業や休暇、シフトなどの申請・管理、およびそれに紐付いた給与計算などの機能がありますね。Suicaなどを使えるものもありますし、Web打刻をするものもあります。いわゆるアナログ打刻をして、それをデータとして入力してから諸々の処理を行うだけのものもあります。
給与計算が必ず絡んでくるので、会計ソフトと連携できるものが望ましいです。
有名ツール:ジョブカン勤怠管理, マネーフォーワードクラウド勤怠, 人事労務 freee
会計ソフト
ERPを導入していれば必要ありませんが、単体で導入し、うまくやればCRMなどと連携させることもできます。
これは税理士さんがどこまで対応してくれるか(あるいは税理士さんを変えるか)というところまで含めて考える必要がありますが、正直会計ソフト自体は導入しない理由がないくらいのものではないかとは思います。
CRM連携や税理士さんの対応、その他の経費精算ソフトや勤怠管理ソフトなどとの連携を含めて、ある程度会社のシステム戦略が決まり、基盤が整ってきてから選定をするといいでしょう。
有名ツール:freee, マネーフォーワードクラウド会計, 勘定奉行クラウド, 弥生会計オンライン
税理士さんの質にもよりますが、システムの連携を優先して、それに対応できる税理士さんを探す形にしたほうがいいのではないかという気はしています。
BIツール
システムが増えてくると、連携していない複数のデータソースをまとめて分析する必要が出てくる場合があります。あとは謎のExcelとか。
また、普段見ているデータをよりグラフィカルに表示したり、高度な解析を行ったりしたい場面も出てきます。
まぁ、膨大なデータがない状況で、Salesforceとかのレポート出力がまともなツールを使っていればそこまですぐに必要という感じではないので、必要に応じて、という感じですね。
念の為ですが、BIツールはそれなりに使いこなすのが難しいです。無料のものもありますし、触ってて楽しいという側面もよくわかりますが、データ分析コストを上回るベネフィットがない限りは時間がもったいないので、常に目的を意識してください。かっこいいレポートを作る、みたいなのではなく、ね。
有名ツール:Google Data Portal, Salesforce Analytics, Tableau, Qlick Sense
ちなみに、Tableauは超有名ツールだったんですが、Salesforceに買収されました(製品自体は残ってます)。
GoogleとSalesforceもかなり蜜月な関係ですから、まぁだいたいこの二社が王道ですね。
一応MicrosoftにもPowerBIというのがあります。
RPA
Robotic Process Automationの略。
ざっくり言えば、PC上でのルーチン作業を自動化できます。
定型的なデータのコピーペーストだとか、データの整形作業、メールの自動返信だとかですね。
ただ、ぶっちゃけDXがまともに進んでくると導入したツール側でかなりの部分自動化できる上、次に挙げる連携ツールを使えば複数のアプリケーション間でもある程度連携できてしまいます。
ある程度ツールを導入仕切って、それでもまだどうしても無駄な作業が残っているときに最後のひと押しとして導入したりするのがいい気はしています。
おすすめ:PowerAutomate(Windows11からは無料版が標準装備になりました)
有名ツール:ロボパットDX, UiPathプラットフォーム, Automation Anywhere
アプリ連携ツール
クラウド全盛の現代。この記事で挙げてきたほとんどのツールはクラウド型で、だいたいがAPIという外部のアプリケーションとのやり取りが可能なインターフェイスを持っています。
APIがあれば、もちろん自分でアプリケーション間の連携プログラムを実装することもできます…が、そんな面倒なことをしなくても、有名クラウドアプリケーション間であればだいたいアプリ連携ツールを使って連携できます。
- このフォルダにメールが入ってきたらタスクを作成する
- このスプレッドシートにデータが入ってきたら顧客データを更新する
- 特定のタグがついた顧客がリストに入ってきたらチャットツールにアラートが入る
などなど、可能性は無限大。
基本的には~したら、というトリガー部分と、~するというアクション部分がアプリごとに設定されていて、連携ツールによって、対応しているアプリの種類やトリガーやアクションの量などが変わってきます。
無料のものである程度事足りますが、CRMなどと連携したい場合は大抵有料になります。
おすすめ:Zapier, PowerAutomate(どっちもおすすめです)有名ツール:IFTTT
…以上、大まかなツールの種類でした。
かなりざっくりでしたが、全体像や当面必要そうなものにあたりはついたのではないでしょうか。
ツールの選び方
便利なツールがたくさんあるのはわかったけど…おおすぎにゃい?
そのとおり。「良くなる」のは当たり前。
これ!と思っても、ぐっと堪えるにゃ。
とにかくROIを考えて、まずはやるべきことの優先順位を付けつづけること。
やるべきことが決まっても、やっぱりROIでツール比較していくのが大事にゃ~。
ここまでで、ツールの種類も数も膨大にあるということがわかったと思います。
この記事ではさらに、それらのツールの絞り込み方、選び方を解説していきたいと思います。
ツール選定の基本はROI(費用対効果)
まず、とても当たり前のことから。基本は、「コスト」と「ベネフィット」の比較になります。要するに費用対効果ですね。
ROI(費用対効果)=ベネフィット / コスト
であり、ツールごとにこれをざっくり並べて比較します。
それぞれ説明していきましょう。
コストについて:費用だけでなく、導入コスト、運用コスト、拡張コスト(および移行リスク)も考えておいたほうがいい
ツール導入においてまず気になるのはいわゆる「ツール自体の利用料金」でしょう。
しかし、それはほんの一部に過ぎません。実際のところ、「工数」ベースのコストの方が大きくなることが多いのです。
また、リスクという観点から期待値ベースでコストを算出しておくことも重要です。
導入コスト/リスク
ツールの出来が悪ければカスタマイズや業務プロセスの検討などで、導入コストが○人月という単位で余計にかかってきます。内製できたとしても、エンジニアの人件費は月おいくらですか?
同様に、教育コストも膨大になります。なにより、スタッフが大きく不満を溜め込み、導入の足を引っ張ったり、導入が拒否されてしまうリスクもあります。
運用コスト/リスク
使い勝手が悪かったり、データ連携に不備や手間があったりすれば、毎月すべてのスタッフが数時間とか数日単位で工数がかかることも多いです。
当然、システム担当にかかるメンテンナンスコストも見逃せません。運用自体が回らないリスクもあります。
拡張(移行)コスト/リスク
今後新しい機能を追加したくなったときに、機能追加が異常に高かったりすることもよくあります。要するにバックエンド商品なわけですからね。
機能追加が不可能だったり、連携が不可能だったりすればツール自体を変えることになり、○人月という単位で移行コストがかかります。
ツールの開発停止リスク
これは妙に格安のマイナーツールの場合ですが、最悪の場合、開発自体が止まることもありえます。ITの世界は変化が非常に激しいですから、単純にアプリケーションを正常に動作させるだけであっても、ブラウザを含め様々な変化に対応していかなければなりません。
これが止まってしまえば、穏やかにツールが機能しなくなりますし、他のツールにどんどんと新機能が実装されていくなか、まったくなんの機能も追加されません。
最悪、サービス自体の停止ということもありえます。(有名ツールでさえサービス終了することがありますからね)
こうなってしまえば、強制的に移行コストが発生です。
ツールの「価格」よりも「人件費」や「リスク」を重視すべし
だいたいのツールは1アカウントあたり月1000円以内だったり、高くても1~2万円程度なわけですが、それに対して工数のコストはどうですか?
スタッフの使い勝手の悪さだけで考えてみましょう。仮に時給を2000円だと仮定しても、1000円以下の価格差なら月30分、1万円の価格差であっても半日工数が浮くなら元が取れます。
こうした目に見えないコスト面でのイニシャルコスト、ランニングコストは膨大で、様々なリスクも軽視できるものではありません。
価格表の値段だけにとらわれず、実際に想定されるコストやリスクを具体的に書き出して比較していきましょう。
ベネフィットについて:基本は効率化か付加価値のどちらか
ベネフィットについては、大きく2つのカテゴリに分けられます。
効率化
一つは効率化。これは単純に、業務自体にかかるコストが圧縮される場合。これは比較的計算しやすいベネフィットです。処理の自動化なんかはわかりやすいですね。
付加価値
もう一つは提供している製品やサービスに付加価値がつくこと。こちらは計算しにくいベネフィットです。顧客対応の高速化や顧客向けアプリなどはいい例です。
このそれぞれを分けて書き出して表を作り、比較することがポイントです。
文章で考えてもうまく比較できませんから、とにかく表を作りましょう。それが一番です。
ツール選定の基本的な戦略
会社の業務をツールに合わせるべし
基本的に、会社の業務をツールに合わせて変更したほうがいいです。
ツールの選択肢が増える
第一に、業務に合わせてツールを選ぶとよい選択肢がなくなります。
自社の業務フローが特殊だと余計にその傾向が強いです。
下手なツールを選んでしまうと、そもそも運用が回らなくて手作業に逆戻りする可能性さえあります。
不要な要件を積み上げて選択肢を狭めないようにしましょう。
ベストプラクティスが活用できる
第二に、有名ツールであれば、ツール自体に世の中の「うまく行ったやり方」が反映されています。いわゆるベストプラクティスです。
そして、そこに付随した様々な機能がどんどん実装されていきます。同じツールを使っている他社の事例も参考にできます。
ツールとともに会社の業務プロセスを進化させるつもりで選びましょう。
導入コスト、運用コストが大幅に下がる
第三に、ツールに合わせることができれば、導入コスト、運用コストも大幅に下がります。
ツールを業務フローに合わせようとすれば、初期の導入コストはもちろん、運用時のメンテナンスコストも膨大になります。
逆に、ツール側が想定している使い方にまとめることで、標準機能を余すことなく使うことができ、余計な機能を開発・維持する手間がなくなります。
ゼロベースで考えよう
業務プロセスを変えることは、非常に多くの痛みを伴います。とても大変なことは承知の上。しかし、業務プロセス自体をツールに合わせ、さらにDXに適応的な組織になっていくことこそが大切なのです。
そもそも、DXで会社を変えなきゃならない状況で、既存の会社の業務が「理想的」であるはずがない。
だから、まずはDXに前向きな環境を作り上げ、ゼロベースで業務プロセスを再設計する覚悟でDXに臨みましょう。
特に中小企業はそもそも業務自体を変えるコストが低いのでなおさらです。
目先の要件と機能にとらわれない
単純な話で、そもそも会社の成長やDXを通して自社の業務は大幅に変化・多様化し続けていきます。
ITの進歩は驚くほどの速度ですから、使っているツール自体も同様に、変化・多様化し続けます。
つまり、
要件:変わる、増える
機能:変わる、増える
ということです。
これまで何度も目先の業務内容や目先のツールの機能だけを見てツールの選定を行う場面に遭遇してきました。が、これはとても危険です。
会社が成長するなら、少なくとも主要な業務システム(CRMなど)についてはいいものを使ったほうがいいということです。
戦略を明確にしてからツール選定に入ること
前述の通り、会社の業務も変わるし、ツールの機能も変わります。他に導入するツールとの連携まで考えると、ものすごく広い範囲を考慮する必要が出てきます。
その際、特に重要になってくるのが戦略です。
そもそも、DXとはミッションを実現するためのものであり、それを実現するためのビジョンと戦略が十分なものでなければ、DXはまず成功しません。
ツール選定を間違えるとかなりの手戻りが発生し、場合によっては致命的なコストとなりえますから、かならず戦略を明確にしてください。
DX戦略についてはこちらの記事も参考にしてください。
要件は理想と最低限にしっかり分けること
要件が変わるからといって要件を書き出さなくて良いわけではありません。
特に重要なことは、「最低限」何が必要なのかを明確化すること。
「あったらいいな」と「なければダメ」を区別して、「なければダメ」に引っかかる候補を徹底的に除外していくのが最初のステップです。
目先の課題ではなく、課題の本質を徹底的に追求してから要件を定義すること
そんなの当たり前
だと思うかもしれませんが、これを常に突き詰めるにはかなり精神的なリソースを消費します。
そもそも、業務全体が変化していきますから、「目の前の課題を解決するためのもの」がそのまま適切な要件であることは少ないです。脳のパフォーマンスが高い状態を作り、課題の本質を徹底的に追求して、本当に必要な要件を「最低限」として定義することが大事です。
また、「最低限」の定義も部署やスタッフによって違うもの。人によっては、考えるのが面倒になって、それっぽいものを根拠なく最低限必要だと言いはることもあります。ミッションやビジョンを実現するために絶対に必要かどうか、が明確でないものは「最低限」足りえません。
しっかりと根拠を聞き出し、必要なものを選別し、まとめていきましょう。
安物買いの銭失いを避ける
前述の通り、業務も変わり、ツールも変わります。ですから、本当に必要なものを見極めるのは非常に大変です。
結果として、とりあえず目の前の課題を満足させることだけを意図したようなツールを購入してしまい、まったく運用が回らないというのはよく聞く話です。
安いツールのリスク
安いツールには、以下のようなリスクがあります。
- サポートが貧弱。
- 拡張性が低い。
- アドオンを載せていくと意外と高つくことがある。
- やりたいことを無理やり実現するために余計コストがかかることも。
- 結果として乗り換えなどの移行が発生しやすい。
- 機能が少なく、インパクトが低い。
マイナーツールのリスク
マイナーツールには、以下のようなリスクがあります。
- 検索しても情報が出てこない。
- 連携ができない。
- ツール開発や提供自体が止まる・遅延する可能性がある。
- 有名なツールに機能面でどんどん差をつけられることが多い。
少し高くても王道的なツールを選んでおいたほうが無難
結論として、導入・運用・拡張のコストや長期的なベネフィットを考えると、少し高くても王道的なツールを選んでおいたほうが無難です。
コスト、ベネフィットの面から一つ一つ見ていきます。
導入コスト:
やりたいことができない、が多すぎると、そもそも業務効率が落ちる場合があり本末転倒です。
運用コスト:
トラブルは日常茶飯事で、トラブル対応の時間が増えてくると、それだけで人件費が圧迫されます。月数万円単位の差額であれば、高くてトラブルの少ないツールを使ったほうが確実にいいです。
拡張コスト:
拡張の際、他のツールケーションをつなぎこむ形にすると、動きが非常に煩雑になり、しっかりと統合されたツールと比べるとかなりの手間やトラブルが発生します。
移行コスト:
移行が必要になった場合のコストはかなり膨大です。例えばCRM移行だとすると、データ構造をある程度保ったまま移行しなくてはならないので、この準備と開発だけでおそらく数百万~数千万円規模のお金がかかります。
外注せずに内製できる技術力があったとしても、最低でも何ヶ月かはDX担当チームがそれにかかりきりになるし、その後も膨大な教育コストと機会損失が発生し、最悪の場合会社の業務システムが崩壊する可能性もあります。
長期的なベネフィット:
ツールを今の時間軸だけで見てはダメ。今後のDXのキモは明らかにAIですが、それを開発できる企業は限られています。大きな会社であれば、自社で開発することも多いし、積極的に買収して機能を取り込んでしまします。最終的にはどうしても大きい会社が強いのが現実です。
自社の非常にニッチなニーズを「なにも考えなくても」満たしてくれるようなツールを導入するのは非常に「わかりやすい」ですし、「とにかく動けばいい」ツールのほうが「安い」のは事実ですが、長期的な視野でツール選定をしていきましょう。
補足:国産のツールにも注意しておく
日本の環境にあったものは国産のツールであることが多いのですが、基本的に技術力、資金力などはかなり怪しく、大きな開発投資などもあまり期待できません。AIなんかがいい例ですね。
主要な海外製ツールとの連携も貧弱なことが多いです。
個人的な見解ですが、目先のニッチを満たす様な商品が多い印象で、長期的なROIを考えると多くの場合海外製ツールに軍配が上がります。英語が得意な会社であれば、最悪日本語化されてなくても海外製のツールを使うことさえ検討すべきだとさえ思います。
インパクトの大きなものから選んでいく
当たり前の話ですが、最終的な連携を考えたとき、インパクトの大きなツールから選んで、連携できるかどうかで残りのツールを選んだほうがいいです。
例えば、会計ソフトなどは導入しやすいので、先走って入れちゃったりすることがあるんですが、後から導入したCRMとの連携ができないとわかってひどい目にあったりします。
かんたんだから、とインパクトの低いところからツールを選ぶのも段階を踏む、という意味では悪くないのですが、最悪ツールのリプレイスが発生しても大丈夫なようにしておいてくださいね。
導入時の注意点
最後に、導入時の注意点を一言ずつお伝えして終わります。
会社がDXに慣れていないうちは、難しいことをしない
大事なことなのでもう一度お伝えします。
いきなりツール導入からのDXはハイリスク!
無理は禁物です。道具よりも、それを扱う人を見てください。
DX戦略や目的をしっかりと示す
DXはそこそこハードルが高いです。
会社は人の集まりですから、ゴールを示せば自発的に動き出せます。共感できればやる気も出ます。ハードルを超えられます。
逆に、ゴールを示さず「俺について来い!」をやっていると、何も考えることができませんし、方向が変わるたびに大きくやる気が削がれます。どんな方向転換も予測できないし納得できませんからね。それでなくてもストレスが貯まります。
計画に関しては修正して然るべきものですし、完璧である必要はありません。とにかくぶれない目的と大きな戦略を示し、細かな計画には常に修正を加えつつ前に進んでいきましょう。
たたき台は出してもいいが、全部署を巻き込んで始める。
部署間の連携は必須です。目先の利害関係を超越して、協力関係を築いて貰う必要があります。
たたき台はDX担当部署や経営トップから出してもいいですが、具体的な実行案を決める際には各部署を巻き込み、「自分たちでDXを考えている」という状況を作り上げましょう。
トップダウン/ボトムアップの両方で進める
トップダウンだけでは、DXは前に進みません。各スタッフが助け合いやすい環境を作り、意見を吸い上げ、彼らの中でPDCAを回してもらう必要があります。
DXは、一人でできるものではありません。会社全体でやるものです。
効果を検証し、改善し続ける
どんなによいツールも、導入しただけでは意味がありません。
運用し、効果を検証し、改善し続けなくてはなりません。
このプロセスが経営レベル、マネジメントレベル、スタッフレベルでそれぞれ回るよう、プロジェクト管理を徹底しましょう。
その他、DXの失敗要因とその対応策に関する詳しい記事はこちら。
いますぐできること
- 気になったツールのリストを作り、一通り確認しておく
- ツールの種類毎にROIを比較する表を作ってやるべきことの優先順位を決める
- ツール毎にROIを比較する表を作ってツールを選ぶ
- DXの進め方の記事を読む
- DX戦略の記事を読む
- DXの失敗要因と対応策の記事を読む
まとめ
以上、DXに役立つツールの全体像と選び方でした。
最初の注意点は、「いきなりツール導入からのDXのはハイリスク」ということ。
ツールにも重要度があり、種類としては
- プロジェクト管理ツール
- オフィススイート/コラボレーションツール
- 社内コミュニケーションツール(ビジネスチャット/ビデオ会議)
- CRM/SFA
- MA
- 生産管理
- ERP
- Web接客
- カスタマーサポートアプリ
- EC
- 採用管理
- 勤怠管理
- 会計ソフト
- BIツール
- RPA
- アプリ連携ツール
がありました。
ツール選定の基本はROI(費用対効果)で、選ぶ際の戦略としては、
- 会社の業務をツールに合わせるべし
- 目先の要件と機能にとらわれない
- 戦略を明確にしてからツール選定に入ること
- 要件は理想と最低限にしっかり分けること
- 安物買いの銭失いを避ける
- インパクトの大きなものから選んでいく
といったことが挙げられます。
最後に、導入時の注意点としては、
- 会社がDXに慣れていないうちは、難しいことをしない
- DX戦略や目的をしっかりと示す
- たたき台は出してもいいが、全部署を巻き込んで始める。
- トップダウン/ボトムアップの両方で進める
- 効果を検証し、改善し続ける
といったことを意識してもらえると、ある程度失敗が減らせるのではないかと思います。
よいDXを!