たったひとりでもDXを進める!しくみ・人材・教育のポイント
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が声を大にして叫ばれて久しいですね。しかし、令和3年度の経済財政白書を見ると、中小企業においては概ね40%程度が取り組もうとしていますが、実践できているのは10%程度。
その大きな原因の一つが、DX人材の不足であり、なによりDXに割ける時間やお金などのリソースの少なさでしょう。
にもかかわらず、DXに必要なスキルや人材、教育方法などの情報を集めても、6つの職種があるとか、スキルはさらにたくさんあるとか、教育の研修がいくらだとか、具体的な行動に繋げられる情報がありません。
この記事では、リソースの潤沢な「大企業」の事例から得た体系的な知識ではなく、人もお金も限られた「中小企業」の、さらに言えば「ひとりでDXを担当している人」の視点で、経験に基づいたリアルな組織づくり、教育、採用のやり方を紹介していきたいと思います。
この記事を読むと、少ないリソースで具体的にどういうステップでDXを実行する組織体制を作り出すのかイメージできるようになります。
DX全体の進め方については、合わせてこの記事を読むのがおすすめです。
DXを推進するための人材とスキル
早速、検索したらよく出てくる情報をまとめてみましょう。
よくある職種とスキル
よくある職種の6つの分類と、そこに必要なスキルはおおよそ以下のようにまとめられます。
職種 | 概要 | 必要なスキル |
プロデューサー | DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材 | ビジネス戦略、プロセス構築デジタル活用能力社内調整力 |
ビジネスデザイナー | DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材 | 企画力言語化能力ファシリテーション能力 |
アーキテクト | DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材 | アーキテクチャ設計能力標準化能力 |
データサイエンティストAIエンジニア | DXに関するデジタル技術(AI・IoT等)やデータ解析に精通した人材 | ビジネスモデルの理解統計学プログラミング |
UXデザイナー | DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材 | ザイン能力テクノロジー情報収集能力言語化能力 |
エンジニアプログラマ | 上記以外にデジタルシステムの実装やインフラ構築等を担う人材 | プロジェクトマネージメント力要件定義力、設計力エンジニア系の能力各種調整能力 |
こんなに揃ってたらもう起業できるにゃ
全部できる人~?
まぁ明らかに多すぎますね。
中小企業の現実
これに対して私たち中小企業の現実はどうかというと…
そもそもDX担当者が一人いればマシ
私の場合はそもそもひとりマーケティング担当でした。つまり、会社のマーケティングとIT周りを一人で担当していました。なんなら、姉妹会社のIT周りや広告周りも担当してました。
小さな会社であればこれもよくあることだと思います。
100人を超えてくるような中規模の会社であっても、DX専任の担当者が複数いるような恵まれた環境はあまりないのではないでしょうか。
実際、ひとり情シス・ワーキンググループの2021年1月の実態調査やその関連記事を見ると、そもそも従業員100人以下の中小企業におけるひとり情シスの割合は5%未満で、ふたり情シスはもとより、そもそも配置すらされていない企業がほとんど。
それも、兼任やあくまで「ITヘルプデスク」的な存在であったりと、DXという一大プロジェクトとして予算を与えられて行動しているようなことはかなり珍しいのではないでしょうか。
外注も採用も教育も難しい
こうした状況ですから、当然外注も採用も教育も難しいです。
IT系の外注の単価は妙に高く、1時間1万円を超えることもザラ。DX人材は採用コストも非常に高いですし、既存の社員を「教育」しようにもやり方がわからない。
いくつか研修サービスもあるけど、イマイチ効果がわからないし、そもそも自分を含めて、誰に適性があるかさえわからない。
これが中小企業のリアルではないかと思います。
DXを推進するための組織体制
役職やスキルの分類を見ても「何もできない」ことはわかったと思いますが、組織体制についても同様のことが言えます。
よくある組織体制
IPAのデジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査を見ると、次のような「推進体制」の例が出ています。
色々種類があり、メリットやデメリットが並んでいますね。ただ、これも役職のお話と同じ。ほとんどの中小企業ではまったくと言っていいほど参考になりません。
中小企業の現実
そもそもDX担当者が一人いればマシ(再)
大事なことなのでもう一度言いますが、中小企業ではDX担当者がいるほうが珍しい。当然、この図に出てくるような組織体制やそのメリットを実現するのはほとんど不可能に近いです。
経産省とかIPAとかは、やっぱり大企業しか見ていないんでしょうかね。
いずれにせよ、私たちにとっては初期に部門を分けるのは現実的ではないと言えるでしょう。
現場ベースでなし崩し的にDX的なことが始まっている
そして、これは大企業でも起きているかもしれませんが、中小企業ではそれぞれのチームが独自のツールを導入したり独自のルールを設定したりしていることが多いです。
特にベンチャー気質が強いチームでは、ガンガン新しいことを始めていくので、猛烈な勢いでツールやフォーマットが日々使い捨てられています。データがバラバラに蓄積されたりセキュリティがガバガバな状態で放置されたりなど、DX担当者にとってもチャレンジングな状況が日々生み出されることが多いです。
私たちは、こうしたチームを含めて、組織全体を体系的にDXしていくための組織体制を作らねばなりません。
では、どういう「職種」や「スキル」を備えた人材を、「どういう組織体制」で配置していけばよいのでしょうか?
DXのフェーズ、組織体制と役割やスキルを切り離して考えてはいけない
まず最も重要なポイントは、
DXをフェーズに分けて考えること
です。
望ましい組織体制や、職種、スキルといったものの優先順位は、フェーズによって全く違います。
現実的なロードマップ
具体的にどのようなフェーズがあるのでしょうか?
よくあるデジタイゼーション→デジタライゼーション→デジタルトランスフォーメーションという話ではありません。DXの進め方についての記事で書いたように、初期のフェーズについてはより細かくフェーズを切って、以下の形をおすすめします。
- (経営によるDX推進へのコミットメント、他のプロジェクトとの優先順位付け)
- 組織に負担をかけない「小さなDX」
- プロジェクト管理ツールの導入とプロジェクト管理ができる組織づくり
詳しくは、DXの進め方についての記事をご覧ください。ここでは、一言ずつだけ説明します。
とにかくまずは経営陣の意志を統一する
これはそこらじゅうで言われていますが、会社のトップ、つまりオーナーや社長といった最も高い権限を持った人がコミットしなければDXはできません。
さらに、会社全体の様々なプロジェクトと比較して、DXがどういう優先順位なのか、どれだけのリソースをそこに割り当てるのか、ということについて、経営陣全体で最低限の合意が必要です。
これを継続的に確認し、合意し続けらる状態でないなら、職種がどうとか、スキルがどうとか、組織体制がどうとかいっても…誤解を恐れずに言えば、そもそもDXを始めることが時間の無駄です。いえ、むしろ回収できない投資になる可能性も高く、マイナスであるとさえ言えます。
優先順位の認識の共有や合意がなくてもトップのコミットメントがあれば何かしら結果がでる可能性もありますが、そのプロセスは壮絶を極めるでしょう。ひとりDXの兼任担当者であるあなたは、人の倍働いても終わらない仕事に忙殺されます。
組織によってはここが最大の難所になるでしょう。
最初の小さなDXで組織全体を調整する
いきなりペーパーレスとか、「望まない変化を強制される人」が出るようなプロジェクトはやめてください。入力支援ツールの導入・研修とか、「使えば単純に効率が上がるもの」「最悪できなくてもなんとかオペレーション自体は回り続けるもの」にしたほうが無難です。
この中で、組織のDXに対する反応を確認したり、現場の意見の吸い上げたり、社長を含めたDXチームをなじませたりといったことをします。必要に応じていくつかかんたんなDXをやっていきながら、ここでDXを推進するための組織体制を試行錯誤していきます。
会社全体でプロジェクトマネジメントができるようになる
次に重要なのが、会社全体の業務上のコミュニケーションの円滑化と、スタッフそれぞれが最低限セルフマネジメント、プロジェクトマネジメントができる組織を目指すことです。
というのも、基本的にDXというのはオペレーションの変更を伴うことが多く、それはすべてのチームに等しく「マルチタスク」を強いることになるからです。単一の業務に集中することだけに慣れているスタッフが落ちこぼれていかないよう、なにより、会社全体が変化の激しい世界に適応し続けられる組織になるよう、DXを推進する土台としてここに注力するのが望ましいです。
最悪、他に進めなければならない施策があれば優先してもかまいませんが、よほど致命的なものがなければここに注力するのが最も効率がいいです。
最初のフェーズで重要な能力とスキル
では、具体的にどのような能力やスキルが重要なのでしょうか?どういう組織体制が望ましいのでしょうか?
解説していきます。
正直、DX開始当初の人材は、かなりのハイスキルが要求される
結論から言えば、まず最も最初に必要な人材、つまりひとりDXを担当する人に必要なスキルセットは、正直かなりマルチです。「最初のフェーズに重要な能力」に絞り込んでなお、です。
たとえばこのニュースによれば、DXがうまくいっている会社では経営、事業、技術の3つに精通し、リーダーシップを発揮できる人材が中心になっているとのこと。これは実際にそうだと思います。このどれかが欠けても重大なボトルネックになりうると感じます。
ですが、それぞれに要求されるレベルにはもちろんばらつきがあり、それは企業の状態と状況に応じて変わってくるというのが実態です。
小さな会社であれば、
- 経営目線で考えられること
- 各部門の業務実態を十分にヒアリングできること
- 最低限のプログラミング的な知識とIT系のツールの活用能力があること
といったところでしょうか。リーダーシップについては言語化しづらいですが、
- 常に目的を意識し、伝え、そのために必要なコミュニケーションを社内のすべてのスタッフに対して行えること
といった感じでしょうかね。
これに加えて、相当なマルチタスクが発生するので、]
- セルフマネジメント能力
- プロジェクト管理能力
は確実に必要になってきます。
このくらいのレベルであれば、ある程度コミュニケーション能力のあるエンジニア経験者とかであれば、ちゃんと努力すれば該当すると思います。私はまさにこのタイプで、経営目線とか巻き込み能力とかを後付けで鍛えました。
強いて言えば、特に経営関連の能力が重要
このなかで特に優先順位の高い能力はなにか、といわれれば、プロデューサーやビジネスデザイナーの職種に必要とされる能力です。もっといえば、経営者に近い能力といってもいいかもしれません。
一番最初のステップを見てもらえばわかるように、DXを進めていく上で最初であり最大の難所は「経営判断」であり、「優先順位付けとリソース配分」であり、「それについての合意形成」です。
中小企業においては、経営者も含めすべてのスタッフが「プレイヤー」に近い状態であることもよくあります。また、DXもできていませんから、情報が断片化されており、会社の現状把握をするのも非常に難しいです。
結果として、会社全体のプロジェクトの状態を客観的に把握し、優先順位付けするという作業が経営陣であってもなかなかできていないことが起こりえます。
仮にそれができていたとしても、それぞれの事業に対してDXにどのような可能性があり、どんなリスクがあるのかをまとめるのはDX担当者。会社のあらゆる事業とその可能性を適切に優先順位づけし合意を導くのは容易ではありません。
唯一のDX担当であるひとりDX担当は、少なくともここで経営陣の一人として会社全体の未来を戦略的に考え、議論し、それをファシリテートしつづけていく必要があります。
この最初のステップ一つだけを見ても、DXの初期において、経営に関する能力、社内調整野力などが不可欠であることは疑いありません。
技術的な面はあまり重要ではない
逆に、技術的な専門性はそこまで高い必要はなく、ツールの説明を聞いてざっくりと実装を想像し、制限や拡張性などがイメージできればなんとかはなると思います。
正直、中小企業の初期のDXにおいては「とにかく導入すれば効果が出る」というレベルのツールがかなりあります。そして、細かいカスタマイズをするよりも基本的にはオペレーション自体をシステムに合わせてしまったほうが、イニシャル・ランニングコストを考えても、うまくいっている仕組みを取り入れるという意味でも、確実にいいです。
なにより、ツール自体がどんどん使いやすく進歩し、連携も容易になってきているので、データベースやプログラミングなどの基本的な知識はあったほうがいいものの、具体的にコーディングできるレベルの能力はなくてもなんとかなることが多いです。
というか、業務上のあらゆる場面を想像し、比較考慮することになるので、どうせ毎回勉強する羽目になりますし、大きなベネフィットやリスク以上に細かい部分はあまり考慮している余裕がありません。地頭の良さの方が重要です。
今から自分を鍛えるには
かなり高度なスキルセットについて書いてきましたが、ぶっちゃけこれが揃ってる人がいるのは想像しづらいです。というか、こんなの持ってる人がそうかんたんにいるわけないですし、いたらもうDX回ってます。
ですから、私を含め、ほとんどの皆さんは自分を鍛えることになると思います。
まず、運動とか瞑想をして、脳のパフォーマンスを上げつつ、よりよい環境を作って高い思考能力を実現しましょう。テストで満点を取るような記憶力や瞬発力ではなく、あらゆるものを利用して最終的に適切な回答を選び続けられるタイプの頭の良さが重要です。
注意してほしいのは、経営目線での思考やプロジェクト管理能力、巻き込み能力です。これらは「ないと話が始まらない」のですが、正直これが備わっている人というのはITスキルよりもよっぽど珍しいです。採用・教育の観点で言えば、こうした能力を持った地頭の良い人を社内で見つけて、多少IT系を学んでもらう方が現実的なのではないかと思ったりもします。
あなたがこのあたりを苦手に感じているなら(私もそうです)、ぶっちゃけコンフォートゾーンを打ち破って経験を積むしか無いです。プロジェクト管理や巻き込み能力なんかはかなりの高いレベルが要求されるので、挫折を繰り返して成長する以外ありません。
この部分については、可能であれば自分の能力不足について事前に相談しておき、経営陣一丸となって失敗を許容し、支え合える環境が作れると望ましいです。
主体的、挑戦的でありながら計画的であろうとするマインドセットが必要
では、マインドセットはどうでしょうか。すでにご想像の通りだと思うのですが、ほとんど経営者的なマインドでないとひとりDX担当者は務まりません。
戦略的なレベルでのDXというのはほとんど事業を再構築するようなものです。そして面倒なことに、0から始めるわけではないので、今あるものを「大きく変化」するよう導かなければなりません。様々な摩擦が生じますし、失敗すれば普通に業績がマイナスになり得ます。
責任の押し付け合いなどしている暇はありません。様々なトラブルを乗り越え続けなけれなりません。影響範囲は甚大で、徹底的に計画が必要です。
自らの意志で考え続け、行動し続けるマインドが求められます。
これも、環境を作り、習慣を作っていくなかで身につけ、洗練していきましょう。
少ない人的リソースを効率よく活用するしくみ
さて、ひとりDX担当者が尋常ではないスキルとマインドを要求され、会社全体に責任をもつようなポジションであることはなんとなく伝わったのではないかと思います。
ただし、そうした要求に応えられるようになったとしても、会社は一人の力では回りません。トランスフォームできません。
しかし、二人目のDX担当が採用されることはない。
では、どういう組織体制にしたらいいのでしょうか?
DXオフィサー制度のススメ
「DX推進チーム」を専任の専門家集団だと考えるのはやめましょう。
見方を変えて、「会社の変革を導く有志の集まり」を目指せばいいのです!
そもそも、私たち自身が兼任担当者なわけですから、別に他の人達も兼任でいいはずです。
そして、会社の変化のきっかけとして、「トップダウン」だけではなく、「ボトムアップ」もあったほうがいいに決まってます。現場を知るのは現場の人間であり、現場を変えるのも現場の人間ですからね。
じゃあ結論はかんたんで、すべての部署のすべてのチーム(3-5人程度を想定)に対して1人、DXオフィサーとして兼任のDX担当者を募り、任命すればいいのです。
これとは別に、当然マネージャークラスの人たちも別途DXのプロジェクトに直接的に巻き込みますが、場合によってはマネージャークラスよりもこのDXオフィサーをDX推進の中核に置きます。
DXオフィサー任命の流れ
正直、この施策は組織全体の顔と名前が一致する中小企業ならではです。
この任命作業は非常に大事なので、採用と同じレベルで考えてください。
プロセスはそこまで複雑ではありません。
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小さなDX施策を回している間に、DX担当者や各マネージャーが「有望そうな候補」を絞り込む
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候補が絞り込めたら、DX施策の中で非公式に「チーム内で教える役」とかを任命したりして下地を作っておく
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週2-3時間程度の追加業務を目安に、JDとか評価制度を整備する
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DXオフィサー制度を発表し、可能なら推薦方式(自薦・他薦)でオフィサーを決める
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キックオフMTGを開催する
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適切な間隔(月一回/隔週など)でオフィサーに報告を上げてもらい、それをベースにPDCAを回すMTGを行う
ざっくりこんな感じです。
チームに悪影響を与えるタイプのスタッフがオフィサーになると非常に面倒なので、制度発表の際、先に根回しをしてもいいですし、あまりに問題がある人が多ければこちらから任命してもいいです。(トップダウン感が出てきますが)
DXオフィサーに任命されたスタッフの目的は、「現場の意見をDX施策に反映すること」であり、「会社のDXを推進すること」です。この、「みんなで会社を変えていこう」という雰囲気をいかに作り出すかは経営層の腕の見せ所ですね。
DXオフィサーのメリット・デメリット
DXオフィサー制度が導入できたときのメリット・デメリットを書いておきます。
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現場の人間が、DXに対する当事者意識を持ちやすくなる
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現場の状況を適切に吸い上げることができる
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DX施策実施時の様々なトラブルや課題を現場で解決できる
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場合によっては研修を委任することもできる
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様々なDX施策のプロトタイピングなどを素早く実施できる
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間違った人を任命してしまうとトラブルがおきかねない
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会社の規模が大きくなりすぎると、オフィサーの管理がそれなりに大変
こんな感じでしょうか。中小企業であれば、間違った人を任命さえしなければかなり効率的な制度だと思います。
「外側」から変化を促すのではなく、「自分たちで」変わってもらう。
DXチームが「変える」のではなく、会社全体で「学び」、「変わる」文化を作る。
これが最も重要なことです。
## 最初のフェーズを乗り越えたらどうするか
DXオフィサーを任命し、プロジェクトマネジメントができる組織づくりが徐々に形になってきたら、その時点ですでにかなり業務が効率化されているはずです。
主要な業務で利益率があがり、工数などのリソースにも余裕が出てくる。
新しいプロジェクトをどんどん立ち上げて回していける土壌が出来上がり、目に見えて日々の業務が変化し始めるので、会社の雰囲気も徐々に前向きになっているはずです。(望むらくは)
ここまでこれば、余裕がでたリソースを採用や教育に回す時です。
ひとりDXを卒業!採用や教育のポイント
採用する人材に求めるスキル
ひとりDXを卒業するにあたって、次にどんな人材を選ぶべきかと言われれば、状況によるのが正直なところです。あなたひとりでだいたいのプロジェクトを管理できているのであれば、突き抜けたITスキルやデータ分析能力、デザイン能力、企画力など、不足している部分を探して補っていくのがよいでしょう。
ただ、プロジェクトが増え、大きくなる可能性があるのであれば、先程の経営目線、マネジメント能力、巻き込み能力などを優先して採用・教育するのが現実的ではないかと思います。
とにかく、「文化や価値観を作ること」が重要で、通常の場合、そのために最初から高度なIT技術や経験が必要ということはありません。そういう技術は最悪外注できます。もちろん、外注先の言っていることを素早く吸収したり、各種サービスのメリット・デメリットを理解でき、業務上必要な設定が最低限できるレベルのITリテラシーはないとまずいですけどね。うまく優先順位をつけながら、採用・教育を行っていきましょう。
基本的にはポテンシャル採用
余裕が出てきたとは言え、よほど儲かるビジネスをしていない限りは、「DXの経験のある優秀な人材」を雇うのは難易度が高いです。それどころか、DX人材に求められるどの職種の人材も大概単価が異様に高いので、採用は至難の業です。
また、前述の通り、経営に近いスキルやマインドが求められる可能性が高いので、「エンジニア」的なワードで探しても見つかりづらいですし、実際に経営を経験している人なんてそうそういません。
ですから、ぶっちゃけほとんどの会社では「ポテンシャル採用」になると思います。
「ビジョン」と「経験できること」をアピールしよう
ここで重要になってくるのが、「ビジョン」と「経験できること」です。
採用の際、絶対に書いておかなくてはならないのは、会社のミッションに沿って、ビジネスモデルレベルで、理想的には市場が大きく変わるレベルでの「大きなDXのビジョン」。
業界がニッチであっても、「業界を変える」というビジョンが伝われば、メインのターゲット層はワクワクします。
そして、具体的に積むことができる「経験と裁量」。そもそもDX関連の職務経験は明らかに市場価値が高いですから、そこに不満は出にくいはずです。われわれの側も「手足」がほしいのではなく、「自律型のスタッフ」がほしいわけなので、裁量は与えざるを得ません。
ですから、それを正直に書いてください。
会社全体で変わろうとしている土壌があることや、失敗を許容するような文化があることを追記しておけば、「わくわくし、成長につながる環境」を求める人が応募してくるはずです。
採用系のSEOが強ければ採用サイトで、難しければWantedlyなどがこの採用方法には相性がいいですね。
採用基準を合意して、シートにまとめよう
採用の際は、「働く理由」とか「ITスキル」とかの確認項目ごとに、最低限の状態、望ましい状態、理想的な状態などを定義して、その判定方法までを含めて採用関係者内で合意をし、シートを作成しておきましょう。
教育は極力社内で
教育には大きく分けて2つ方法があります。
一つはいわゆる「外部の研修」を行うこと。もう一つは、「社内での研修」です。
外部での研修を利用するのは構いませんが、私はあまりおすすめしていません。
なぜなら、最初に学ぶべきスキルのほとんどがコミュニケーションや経営判断に関連するものであり、社内での実践とフィードバックを通して覚えるよりも効率がよいとは思えないからです。
同時に、知識的な部分においては会社独自の業務フローやシステム周りの設定などがほとんどであり、ツールの知識は膨大ですから、それらの知識も会社側で優先順位をつけて教えていくほかありません。
もちろん、本人が希望し、社内にないタイプの知識が得られるということであれば参加させてもいいかもしれませんが、受講料の他に工数や実践機会の損失も費用としてかかりますから注意してください。
教育の準備
会社によっては全く役に立たないかもしれませんが、私が教育の際にやったことをまとめておきます。
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現在メンテナンスしているツールをすべてリストアップする
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現在行っているDX施策をすべてリストアップする
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DXに関連する会社の業務フローをすべてリストアップする
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それぞれに対して、最低限理解すべきことを書き出す
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現状で任せたい業務をリストアップする
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その業務についてのOJTの計画を立てる
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OJTを行うにあたって必要な知識をリストアップする
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プロジェクト管理ツール上で、教育用のプロジェクトを作成する
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リストアップした知識を得るために必要な「課題」(TODO)をプロジェクト内に作成していく
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作成した課題を改めて見直し、優先順位をつけておく
これを空いた時間にコツコツやっておかないと、いざ新人が来たときにヤバいことになります。やらないとどうなるかというと…
- 教えることが多すぎて優先順位がつかない
- 教えられたとしても、効率が非常に悪い
- 忙しい中で「課題」を出す時間が取れず、そもそも新人にやることがなくなってしまう
- 課題を出せたとしても、フィードバックの時間がなかなか取れない
- 結果として自己効力感が下がり、モチベーションが下がる
- 結局教育できないまま適当なOJTが始まる
メリットは以下。
- プロジェクトを整理している中で、新たな視点からDX全体をみることができる
- 時間が無い中でも効率よく教育できる
- スキマ時間にプロジェクト管理ツールからフィードバックができる
- プロジェクト管理ツールの使い方を実践で学んでもらえる
- ツールを使ったセルフマネジメントも同時に指導できる
- スムーズにOJTを開始してもらえる
しっかり準備して、気持ちよく新人を迎えましょう!
いますぐできること
- この記事を読む
- 最初の小さなDXやプロジェクトマネジメントができる組織を目指してTODOを出す
- 今自社で求められているスキルを書き出してみる
- 不足しているスキルを補う/鍛える方法について検討する
- DXオフィサー制度が導入できそうかどうか検討する
- オフィサーができそうな人をリストアップしてみる
まとめ
以上、たったひとりからDXを進めていくためのしくみ、教育、採用のポイントでした。
ひとりDX担当者のスキルやマインドに関しては、
- 望ましい組織体制や、職種、スキルといったものの優先順位は、フェーズによって全く違う
- DX開始当初の人材は、かなりのハイスキルが要求される
- 強いて言えば、特に経営関連の能力が重要
- 運動とか瞑想をして、脳のパフォーマンスを上げつつ、よりよい環境を作って高い思考能力を実現しよう
- あとは、コンフォートゾーンを打ち破って経験を積むしか無い
組織体制としては、
- DXオフィサー制度がおすすめ
- 「会社の変革を導く有志の集まり」を目指す
- DXチームが「変える」のではなく、会社全体で「学び」、「変わる」文化を作る
採用・教育に関しては、
- 基本的にはポテンシャル採用
- 「ビジョン」と「経験できること」をアピールしよう
- 教育は極力社内で行う
といった感じです。
すべてのDX担当者がこの記事で前に進めるとは言えませんが、もし行き止まりから抜け出すきっかけを作れていれば幸いです。
ひとりDX全体のナビゲーションがほしい場合は、ひとりDXへの道を参考にしてください。
よいDXを!