【中小企業向け】DXの15の失敗要因と対応策を徹底分析
DX(デジタルトランスフォーメーション)をしなきゃ…
という危機感はあっても、これは会社を作り変えるような大きな話。
そうかんたんには前に進みません。
といったおなじみ問題から、ときには
といった致命的な問題が生じることもあります。
なぜこんな失敗が生じてしまうのでしょう?どすうれば、致命的な失敗を回避できるのでしょう?
この記事では、主に中小企業でDXを担当している人に向けて、DXの失敗要因や対応策についてお伝えしていきます。
この記事を読むことで、現在抱えている問題とその優先順位がある程度見え、それに対してどういう手順で対処していく必要があるのかが整理できるはずです。
- 1. DXにおける失敗とはなにか
- 2. 解決は難しいけど回避はできる!失敗要因と対応策
- 3. 中小企業なら解決できる!失敗要因と対応策
- 3.1. 組織全体がコミットできていない(※致命的な失敗の原因)
- 3.2. 会社全体の文化・価値観がDXに適応できていない(※致命的な失敗の原因)
- 3.3. 戦略がない/おかしい
- 3.3.1. 失敗要因:「技術とかツールを使うこと」がゴールになっている
- 3.3.2. 対応策:暫定でもいいからミッションとビジョンを明らかにする
- 3.3.3. 失敗要因:ミッションやビジョンがスタッフに浸透してない
- 3.3.4. 対応策:コミットできるミッションなのか確認し、業務のあらゆる面でミッションをうちだす
- 3.3.5. 失敗要因:課題の認識がおかしい
- 3.3.6. 対応策:課題の本質を追求する
- 3.3.7. 失敗要因:解決策がおかしい
- 3.3.8. 対応策:客観的に書き出すこと、多様性のあるメンバーで解決案を検討すること、とにかく知識と経験を積み選択肢を増やすこと
- 3.3.9. 失敗要因:優先順位がついていない
- 3.3.10. 対応策:計画するための計画を入れる
- 3.4. 施策の実施方法が悪い
- 3.5. DXが持続しない/会社としてDXを身に付け切れない
- 4. 忙しい中でも失敗しないポイント
- 5. いますぐできること
- 6. まとめ
DXにおける失敗とはなにか
失敗について考える上で、まずは失敗について軽く確認しておきましょう。
失敗にもいくつか程度があります。
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日々の失敗:DX導入時に起こる現場での様々な失敗
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プロジェクトの失敗:DXプロジェクトそのものが目的を達成できなかった/形にすらならなかった、という意味での失敗
-
致命的な失敗:会社を危機的状況に追いやる/会社を潰してしまうレベルの失敗
日々の失敗に関しては、起きて当然のものです。
DXにおいてこうした失敗は無数に積み上がるもので、失敗と成功を繰り返して目的を達成していきます。この記事では、もちろん1のタイプの失敗についても扱っていきます。
一方、2以降に関しては、あまり繰り返すべきものではありません。
ですが、小さいプロジェクトにまで目を向けると、正直プロジェクトの失敗というのはまぁまぁ起こったりします。この割合が増えてしまうと、3の致命的な失敗につながるため、どうにか日々の失敗の段階でその芽を摘んでおきたいところです。
最後に致命的な失敗ですが、非常に残念なことに、これも全国各地で生じています。あなたの会社ももしかすると現在進行系で進んでいるかもしれません。
これは人と組織、つまりマインド、文化、価値観といった心に根ざした部分が原因であることがほとんどです。逆に言えば、一度しっかりと人と組織をDXに適応させてしまえば、どんな失敗も致命的なものにはならないとも言えます。
失敗している会社がほとんど
ひとり情シス・ワーキンググループの2021年1月の実態調査を見ると、中小企業のうち「少しでもDXで結果が出ている」状態にあるのは10%程度と本当に少数派。これもアンケート調査ですから、果たしてどこまでうまく行っているのかわかりません。
なぜ、DXは失敗するのか?: 「破壊的な変革」を成功に導く5段階モデルによれば、どうやら海外でさえ70%も失敗しているようです。(ここでの失敗の定義はおそらく2以降のレベルでしょう)
おそらく、国内の企業においてはもっとひどい数値なのではないでしょうか。
しかしながら、国内外の大企業が失敗しているからといって、私たち中小企業がDXを諦める理由にはなりません。
これから説明するように、DXの失敗要因のうち特に重要なものは、身軽な中小企業だからこそ解決の可能性が高い「人と組織」の問題。身軽な分致命的な失敗につながるリスクも高いですが、変化の激しい時代だからこそ、その強みを発揮しやすくもあります。
この状況をチャンスに変え、大企業では想像できない、劇的なDXを始めていきましょう!
ここではまず、「中小企業では解決が難しいけど回避はできる」タイプの失敗要因と対応策を先に見ていきます。
その後、ほぼすべての組織にとって最もクリティカルな問題を含む、「中小企業だから解決しやすい」タイプの失敗要因と対応策を確認していきます。
解決は難しいけど回避はできる!失敗要因と対応策
中小企業と大企業の最も大きな違いは何でしょうか?
そうです。リソースです。人がいない。お金がない。時間もない。
当然、人もお金も降って湧いてくることはありませんから、この問題を短期的に解決する手段はありません。しかし、それがDXを止めてしまう「ボトルネック」にならないように回避する方法はあります。
中小企業の基本戦略は、基本的にこの「リソース不足」をごまかしながら、早急に「致命的な失敗を起こさない人と組織」を生み出すことです。
そして理想的には、大量の「リソース」を投入しなくても自ずからDXが進んでいく組織に変化していくことです。
失敗要因:人材がいない
まず人の問題です。
もしあなたがDX担当者なら、おそらく専任ではないでしょう。専任で担当できていれば、それはとても幸運なことです。
実際、ひとり情シス・ワーキンググループの2021年1月の実態調査やその関連記事を見ると、そもそも従業員100人以下の中小企業におけるひとり情シスの割合は5%未満で、ふたり情シスはもとより、そもそも配置すらされていない企業がほとんど。
ほとんどの人は、既存の業務の間に「ひとり情シス」としての業務が積み上がり、さらに社長から声をかけられて「ひとりDX担当」としての業務をさらに積み上げられている状況ではないでしょうか。
私の場合はマーケティングです。CMOにCTOを足してさらにCDO的な感じでした。盛りすぎです。
どれも非常にレバレッジの効く業務で、会社全体に著しく大きな影響を与えることのできる役職なわけですが、たとえ数十人規模の会社といえどあまりに仕事が多すぎます。終電?なにそれ?
一人が倒れたらその影響は甚大で、会社としても非常にリスキーですし、その職種で判断ミスが置きかねない環境を作るのもリスキーです。
もし似たような状況であれば、会社のリスクを踏まえて、声を大にして採用をするように経営陣を説得していきましょう!…おっと話がそれてしまいましたね。
もしあなたが経営者だとしたら、そもそもDXができる人材がいないことを嘆いているかもしれません。これに関してはもはや、「お金をひねり出して採用する」か「育てる」しかありませんね。厳しい現実です。
人がいなければ、そもそもDXを始められませんし、始めたとしても失敗します。
最低限のリソースは確保し、死守しなければDXはままなりません。
もちろん、せっかく作った最低限のリソースも徹底的に有効活用できなければ、DXはうまくいきません。
失敗要因:時間がない
人材がいないこととそのまま繋がるのですが、人がいないので時間がありません。また、DXが進んでないので業務効率が悪く、時間がありません。
競合が効率化して価格競争に巻き込まれると、より多くの商品やサービスを同じコストでより安く販売せねばならず、やはり時間がありません。
新しいことを始めようとすると、どうしても余計に時間がかかります。それをどうにかして生み出す必要があります。
結果として、DXが始まりませんし、勢いだけで始めても形になりません。失敗です。同上。
失敗要因:お金がない
時間や人材については、実はある程度お金で解決できます。外注や採用です。
しかしながら、外注はかなりのコストを伴いますし、採用も同様ですし中小企業の採用はかなり運頼みなところがあります。
もしすでに競合と比較してDXが遅れていたりすると、これらのリソースの不足がより深刻化していき、よりDXを始められなくなっていくという負の連鎖に突入します。
だからこそ、今すぐに行動しましょう!
そもそも中小企業がDXを「始める」のに必要な最低限のリソースはどのくらいか?
中小企業といっても大きければそれなりの人数になりますから、正直規模によるとしか言えません。が、100名以下くらいの規模であれば、
- 人:
- 経営視点、現場視点、リーダーシップと最低限のITの素養を持った人が1人(相当きついです)
- 現場の各チーム内にそれぞれ週2-3時間をDXに使える兼任担当者
- 時間:
- DX初期のイニシャルコストとして、全社の他の業務が1割程度、数カ月間遅れるかも
- お金:
- 営業メインの会社なら各社員に対して2万円程度のSaas等の利用料
くらいのイメージです。
正直業種や会社の状態によって全く異なってくるのであくまでぼんやりとした目安として受け取っていただけると嬉しいのですが、これが5倍10倍になるようなことは無いのではないかと思います。
いずれにせよ、最初の半年~1年くらいのDXプロジェクトを「スタートするため」に、ひねり出そうと思えばひねり出せるリソースであることがなんとなく感じられたのではないでしょうか。
もちろん、そもそも会社を作り変えるようなプロジェクトですから、本当に大きなことを始めたら必要なリソースはこんなものではすみませんよ。あくまで最初のスタートダッシュで「致命的な失敗が起きない人と組織を作り上げる」までのお話です。
対応策:徹底的に優先順位をつけよう
さて、こうした慢性的なリソース不足の状況において、DXを推進していくための方法は一つ。
徹底的に優先順位を付けて、やらないことを決めてください。
担当者の観点から言えば、徹底的に今ある業務をリストアップして、会社に対するインパクトを書き入れ、優先順位を付けて「やらない業務」を提案します。
経営的な観点から言えば、今会社全体にある業務をリストアップして、優先順位を付け、DX担当の素養がある人に目星を付け、その人の業務がDXよりも優先順位が下なら、多少無理をしてでもDX担当にアサインします。これが最も王道であり、最も現実的で、唯一の解決策です。
ちゃんと、「やらないこと」を決めること!
注意点としては、「ただ優先順位の認識を共有する」だけではダメということです。
各プロジェクトについて「絶対に達成しなくてはならない最低限の目標」と「達成できたらいいなぁという理想の目標」をしっかり区別していき、必要に応じて「最低限」だとしていたものを「理想」にしてください。
こうして、「やらないこと」を決めてリソースを空けて初めて、新しいことを始めることができます。
そもそも中小企業ではマルチタスクが基本で、「業務の何割かが差込で発生する業務」という会社も多いでしょう。DX業務はそれに輪をかけて、予想外の差し込み業務が多いです。削り過ぎなくらい削っておかないと、ほぼ確実にキャパオーバーで失敗します。
対応策:まずは小さく動きながら体制を整えよう
最低限のリソースをひねり出せるだけの優先順位づけができたら、あとはスタッフに喜ばれるようなDXを小さく始めてみてください。
中小企業のよいところは、隅々まで顔が見えること。一人の担当者が会社の全社員の状況を個別に理解しながらプロジェクトを進めることさえ可能です。そして、人間的な関係性を個別に構築できるからこそ、会社全体を巻き込みやすくもあります。
スタッフが喜ぶようなかんたんなDXをサンタさんのように提供し、ポジティブな気持ちで協力してもらいながらとりあえずまず一歩を出し切ります。こうした中で、実際にどのくらいのリソースが必要とされるのかを見極めつつ、DXを推進していく中心となるチームやしくみをなんとか形にしていきましょう。
これがおそらく最も効率のよい「最低限のリソース」の最初の使い方になると思います。下手に「DXの成果」を出そうとせず、とにかく組織づくりを最短距離で行っていきましょう!
詳しくは記事後半でさらに解説していきます。
中小企業なら解決できる!失敗要因と対応策
次に、中小企業だからこそ解決しやすい「失敗要因」とその対応策について考えていきましょう。
もちろん、「解決しやすい」からといって「かんたんに解決できる」わけではありません。せいぜい、大企業だと「ありえないコストがかかる」ことが、「しっかり頑張ればなんとかなる」くらいの感じです。誤解のないよう。
組織全体がコミットできていない(※致命的な失敗の原因)
様々なところでも言われているし、私自身非常に同意するのですが、DXの失敗の根本はほとんどの場合「人」の問題です。ミッションやモチベーションの問題だったり、マネジメントの問題だったり、習慣の問題だったり、文化や価値観の問題だったりです。
そして、前述の通り、これが最も「致命的な失敗」に繋がります。
また、システム開発自体がボトルネックになることも無いとは言いませんが、それは組織がDXに対して適応的になっていれば自ずと解決できる問題です。失敗を取り戻せる組織にさえなれればDXは自然と前に進み、前に進めばリソースにも余裕が出てきて技術的な問題は解決していきます。
成功の秘訣、失敗しない鍵は、人と組織をどうしていくかにかかっているといえるでしょう。特に、身軽な中小企業にとっては、このハイリスク・ハイリターンな要因をいかにうまく扱えるかが分水嶺です。
失敗要因:経営トップのコミットメントがない
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このツールを導入しよう!と「解決策」ありきでDXが始まり、途中で目的がわからなくなる
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社長がはりきって改善提案をたくさん出しているものの、現場は重要性や優先順位がわからず困惑ないし反発する
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ツール選定の際に拡張性などが要件に含まれず、とにかく安いツールが導入されてすぐ使えなくなる
まず持って「ないと始まらない」のが、経営トップのコミットメントです。オーナーや社長が…
- DXの必要性を「十分に理解」し
- 会社のミッションにどうひも付いて、DXを通してどういうビジョンを実現するのかスタッフをモチベートできるレベルで示し
- 他の様々なプロジェクトに対して「どういう優先順位なのか」を明確化し、戦略を示す
こと。
これが一つでも欠けると黄色信号です。
対応策:ミッションに基づいて、DXの理想や最低限をしっかり明確化し、ビジョンを示す
これは当たり前の話なのですが、「DXをしなきゃ」と初めて感じるタイミングというのは、
- DXの話を聞いて概念的に危機感を感じたとき
- 具体的な業務の課題に気づいた/改善方法を思いついたとき
のどちらかです。なので、最初はどんな人であっても「コミットメントが足りてない」状態なんです。
抽象的な方向からも、具体的な方向からもしっかりとDXの必要性を理解して、ミッションに基づいて「理想」だけでなく「最低限」なにをしなくてはならないかを明確にする、という作業が必ず必要になります。
さらに、ただ必要性を理解しているだけでなく、それを「会社全体が一丸となって進めていける」ように明確なビジョンを示さねばなりません。そして、優先順位づけをしてそのためのリソースをひねり出し、ビジョンを実現するための計画を明らかにせねばなりません。
こうした中で、どんな状況でも判断を後押しするような「コミットメント」が形成されていきます。
一番最初の小さなDXについては「どれだけのリソースがかかるのか」とか「どういう戦略で進めていけるのか」ということを測るためにビジョンや戦略を示すのは難しいかもしれませんが、早い段階でこれを行っていかないとDXは確実に機能不全を起こします。
#### 失敗要因:マネージャー層のコミットメントがない
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CRMを導入したのに業績の評価を相変わらずエクセル(スプレッドシート)で行うため、CRMが機能しない
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業務プロセス変化に伴う一時的な業務効率の低下を許容できず、いつまで経ってもDXが進まない
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マネージャーが現場のDXの状況を理解しておらず、導入後に致命的な手戻りが発生する
経営者のコミットメントがあっても、それだけでは会社は回りません。
まず、DXでは業務プロセスが変わったり、データの流れが変わります。ですから、「データの流れ」を見ながら「業務プロセス」を管理するマネージャーという仕事はほとんど別ものになってしまうこともあります。
このとき、マネージャー層にコミットメントがなければ、新しい業務プロセスやデータの流れに否定的になり、古いやり方を通そうとしてしまいます。当然、そうなればいくら部下がDXを望んでいても、実現しません。DXを望まない部下がいれば、その部下は決してDXに適応しようとしないでしょう。
また、そもそもDXというのは部門横断的に進むことが多いですから、マネージャーが各部門の状態を吸い上げ、経営レベルでの調整を行っていく必要がある程度生じます。しかしながら、マネージャーがコミットしていなければこれも機能しません。
間違った(不十分な)情報をもとにDXが進み、後で致命的な問題が発生して0からやり直し、というような状況さえ考えられます。
対応策:ビジョンと戦略を示し、リソース割当や評価制度を見直し、必ず一緒にDXを考える
こうした状況を避けるために、経営者はビジョンをしっかり示し、部門毎、プロジェクト毎の優先順位やリソースの割り当てなどの戦略を示し、場合によっては評価制度を見直すなどして徹底的にマネージャー層をDXにコミットさせる必要があります。
中小企業であれば、マネージャーの階層は何段階もありませんし、人数自体も少ないはずです。直接声をかけ、企画の段階からDXに巻き込んで、一緒に挑戦する雰囲気を作って行けると理想的です。そして、この理想は現実的に可能なレベルであると思います。
ただ、歴史の長い会社の場合はマネージャー層が高齢化・硬直化している場合もかなりあるようで、大企業ほどではないかもしれませんが、この場合はかなり大変です。最悪の事態も想定しつつ、根気強く取り組みましょう。
失敗要因:現場のコミットメントを生み出すマネジメント/プロジェクトがない
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新しいシステムにデータをちゃんと入れてくれない/ちゃんと使ってくれない
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信頼できるデータが出力されない
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従来の業務をなくすことができず、大きな無駄が生じる
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現場の課題が上がってこない
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会社全体のトラブルがDX担当者に集中し、トラブルシュートで身動きが取れなくなる
DXにおいて最低限必要なことは、「会社全体がDXに対して前向きに取り組むこと」。
そして、最も重要な目標は、「どんな環境にも適応し続けられる組織になること」。
これらを実現するためには、もちろん会社の大多数のスタッフのコミットメントが必要です。
なんといっても、実際に商品やサービスを提供し、顧客への価値を、そしてデータを生み出すのはほとんどが現場のスタッフです。彼らがコミットしなければ、業務は効率化されず、顧客に提供する価値は増えず、データも蓄積されません。
対応策:戦略的に環境作りをする
ここでのポイントは、彼らがDXにコミットできるような環境作りであり、それを促すプロジェクトの実施です。これは戦略的に行われる必要があります。
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スタッフがワクワクするようなビジョンを示す
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スタッフの目が覚めるような危機的な状況や環境の変化を示す
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DXの効果がすぐに実感できるような「効果的でかんたんな」施策を積み上げてポジティブな連想を構築する
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各チームに兼任のDX担当者を配置し、意見の吸い上げやトラブルへの相談など高品質のフォローアップを行う
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評価制度を変更し、DXへの取り組みが評価されるようにする
現実的に言えば、全員というのはかなり厳しいでしょう。ですが、「会社の標準」のレベルが「DXに対して前向き」であり、「環境の変化に適応できるスキルを身に着けている(努力している)」状態にまで持っていけるよう、常に努力し続けなければなりません。
会社全体の文化・価値観がDXに適応できていない(※致命的な失敗の原因)
各レイヤーのコミットメントも大事ですが、もう一つ、文化や価値観という切り口でも失敗の要因を分析しておきましょう。これも人や組織に起因するもので、非常に多くの失敗の原因になっています。
失敗要因:みんなで決める/失敗を恐れる
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そもそも業務プロセスの変更に対してマネージャーが反発する
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あらゆる業務プロセス改善の承認が経営レベルにまで上がってきて、まともにDXが進まない
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DXの施策を決めるとき、意見すら出てこず、完全にトップダウンでの業務命令のような形になってしまう
これまで安定的に利益を出してきた企業ほど、そうした「利益」をあるべきものとして捉える傾向が強まります。そして、「合意が無いと何も決まらない」「責任の所在が不明確」「挑戦しないリスクを認識できない」「失敗を過剰に恐れる」という価値観が生み出されます。
現状維持バイアスが、挑戦への期待感や現状への危機感に勝ってしまっている状態ですね。
これは人間である以上大なり小なりどうしても起きることで、「そんな文化はうちにはない!」と否定しても意味がありません。
DXでは、非常に大きな変化が生じます。第二の創業といって差し支えない場合もあります。そのような状況では、失敗を恐れる文化はあらゆる場面で決断を阻害します。
いざとなれば、経営者がすべて最終責任を負うことになるわけですが、それがわかっていても、やはり現場での決断ができない。とくにマネージャー層で起きがちです。
対応策:「心理的安全性」を学び、施策に落とし込む
これを避けるには、近年話題の「心理的安全性」などを意識して、色々な施策を行っていくことになるのではないかと思います。
具体的な施策の例で言えば、
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チャレンジして失敗したことを、"前進した""選択肢を絞った"などポジティブな表現でフレーミングする
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ミッションを示し、行動の意味を明確にする
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あらゆる場面で参加を求める、意見を求める
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コミュニケーションのガイドラインを作る
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完璧ではなく次善を求める
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お互いに感謝し、敬意を払い、前進する文化を築く
などです。
失敗要因:縦割り
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DXの施策毎に毎回部門間のパワーバランスを考えなければならず、スムーズに改革が進まない
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部門内での利害にばかり注目し、複数の職種が集まった現場で総合的な改善案を考えることができない
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そもそも部門を大きく変更することが困難で、ビジネスモデルの変更に対応できない
個々人が縦にも横にも動かないのが「失敗を恐れる」状態であれば、縦割りは「縦にしか動かない」状態です。動いているだけまだマシですが、DXにおいては部門間での調整が必須ですから、縦割りはかなり致命的な課題になります。
たとえば、マーケティングに必要なデータを営業が入力する(項目が増える)という場面では、一営業スタッフの立場から見るとデータを入力したときにえられる利益があまり直接的ではありません。もちろん、マーケティングの質が向上していい見込み客が提供されるとか、会社の売上が上がるとか、いろいろな利益はあるのですが、ちょっとわかりにくい。周囲の営業が入力していればある程度フリーライドできてしまいます。(あまりいい例ではないかも)
対応策:評価制度、組織体制を変更する
これは評価制度や組織体制などの構造的な欠陥であることが多いので、反発必死の大規模な改革が必要な可能性があります。が、まぁ大企業でやるよりは現実的ですし、期間も短く済むでしょう。
このあたりに関しては私もあまり深く知見があるわけではないのですし、会社によってまったく状況が異なるとは思いますが、実際に検討ないし実施した施策としては
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DX周りの評価項目を導入する(部門間連携を高く評価)
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部門横断的な定性的なDXの指標を評価に組み込む
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朝礼などですべての部門を混ぜたチームで会社の行動規範や個々人の目標に対して反省・フィードバックなどをしてもらう
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成果主義を緩めて、プロセス評価の割合を高める
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360度評価やピアレビューを導入する
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DXプロジェクトごとに部門横断的な混成チームを立ち上げる
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組織のレイヤーをへらす
などがあります。参考になれば。
あとはとにかく、DXの重要性をしっかり理解してもらって、部門を分けずに研修を受けてもらい、協力して取り組む雰囲気を作り上げることですね。
失敗要因:ITへの苦手意識
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マネージャー層が軒並みITへの苦手意識を発揮し、DXが止まる。ITが得意なスタッフとモメ始める。
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苦手意識の強いスタッフが非常に大きな不満を持つようになり、社内でトラブルを起こす。
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全くITを使わなくなり、DXが止まる
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そもそもDXの導入に多くの人が強い反発を示す(始まらない)
これもやはり歴史の長い会社で平均年齢が上がってくると起きがちのようですが、若手主体のベンチャーでも普通に起きます。ITへの苦手意識というのは非常に根深い問題です。
まず、デジタル周りが苦手な従業員にとっては、DXが始まることで相対的に自分が無能になると感じられます。特に高齢のマネージャー層では、これまでただの「苦手」だったものが、DXの導入に伴って「自分の地位を脅かす弱点」になると感じる人も多いでしょう。
DXの重要性を説けば説くほどそうなりますし、実際、地位が脅かされる弱点であることもあります。
そうなれば、現実を受け入れきれずにただただ反発する、会社の足を引っ張ってでも自分の地位を守ろうとする、こんなことも起きてしまいます。オペレーションの変化自体に大きなデメリットがあることも多く、そこにつけ込んで徹底的に反発してくる場合もあります。
ただ「苦手」というだけの問題ではないんですね。特に日本は人材の流動性が低いので、同じ会社一筋でやってきた人にとっては悪夢でしょう。
対応策:十分な学習環境とフォローアップ体制を構築した上で、どうしても無理なら犠牲を覚悟する
もしこうした状況が起きた場合は、ある程度犠牲を覚悟で進めていくしか無いのかもしれません…DXにかかるコストとして認識し、ベネフィットと比較して経営判断するしかありません。
理想的には、「苦手」な人でもかんたんに使えるようなUIを徹底し、フォロー体制を充実させ、みんなで頑張っていこう!という雰囲気を作れればベストです。とはいえ、そうした潤沢なリソースを用意することができれば、という話で、やはりトレードオフにはなりますね。雰囲気作りに関しては、うまく行けば少ないリソースでも可能です。
正直なところ、マネジメント層に関してはITが使えないと話にならないことが多いため、DXに伴いITスキルが評価に含まれることもありえます。新たな業務プロセスに適応できないために、どうしても評価を落とさざるを得ないこともありえます。
しかしながら、会社でDXを進めていく必要性は自明であり、最低限そこにキャッチアップしなければならず、使いこなせる方が当然有利になる、というのは事実としてすべての人に受け入れてもらざるを得ません。「会社の方針」として伝えると角が立つので、とにかく「時代の流れ」に要求された不可避なものとして、事実を受け入れてもらうよう伝えてください。
もちろん、ITができるスタッフをサポートとしてつけるという方法もありますが、その場合も、個人で最低限ここまでできなくてはならない、というレベルのITスキルの要件をしっかり定義して伝えることが重要です。
対応策:人事評価を調整する
縦割りの節でも言及しましたが、人事評価制度によって、経営層は会社の人や組織に対して強いメッセージを発することができます。これをうまく使えば、失敗を恐れる文化、縦割り文化、ITへの苦手意識などの問題も、多少なりとも改善に持っていくことができるでしょう。
大企業であれば人事評価制度を変えるのは非常に大変ですが、中小企業であればそこまで大変ではないはずです。
ベンチャーであれば毎年の様に評価制度に手が入るところも珍しくはありませんし、経営層の信頼が損なわれない程度に、うまく活用していきましょう。
直接的にDXへの貢献を評価するのも一つ。特定のDX施策(プロジェクト管理ツールやCRMなど)への適応状態を昇進や昇給の条件にするのもいいでしょう。DX施策をサポートする兼任担当者に対する報酬をつけるのももちろん重要です。
本当に苦手な人にとってはある程度辛い状況はどうしても生じてしまうのですがね。
対応策:行動規範を作ろう
失敗を許容できる環境とか、DXに対して積極的になることとか、そういった価値観、文化、あるいはマインドセットの問題については、「行動規範」を示すことである程度の改善を見ることができるかもしれません。
具体的には、会社の価値観を明文化するようなかたちで、行動規範を書き出し、望ましい行動や良くない行動を具体的に示しましょう。
こんな感じで、会社のミッションの実現に資する、あるいは会社の望む文化にあった行動規範を10~20くらい設定して、普段からこの規範にあった行動をしているかどうかチーム内でコミュニケーションをしてもらうといいでしょう。
朝礼などがあればそれでもいいですし、チームのMTGでもいいです。繰り返して浸透させることが大事です。
戦略がない/おかしい
正直、人や組織が「どんな環境の変化にも適応できる」ようなマインドやスキルを持っていれば、だいたいなんとかなります。ですが、それはあくまで理想であり最終到達目標であって、それが最初から実現できたらDXの成功率がこんなに低くはなりません。
だいたいは、「なんとか失敗が起きないレベル」にまでだましだまし持っていける、というのが実際のところでしょう。
そして、そうした状況では人や組織に関係のない課題であっても会社に致命的なダメージを引き起こすことがあります。
その筆頭が戦略です。まぁ、そもそも人や組織をまとめるときに戦略は必要になるわけですが。
安心してください。私たちは身軽なので、今戦略がおかしくても、すぐに修正できるはずです!
失敗要因:「技術とかツールを使うこと」がゴールになっている
最もわかりやすい失敗要因がこれですね。例というべきでしょうか。これ、本当に多いです。
そもそも、DXに対して積極的に情報収集し、整理していない場合、外部からの積極的な働きかけが情報のメインソースになることがあります。つまり営業ですね。
営業というのは基本的になにかのソリューションを販売して利益を得るわけですが、そのソリューションというのがだいたい何かの技術やツールなわけです。
自社の課題に沿って色々とお膳立てされたソリューションを提案されると、具体的に「DXされたイメージ」が湧いてきます。そして、そのイメージが「DXしなきゃ!」というときのDXとイコールで結ばれるわけですね。さらに、目の前でそのツールを使っていないことが機会損失に思えてきて、今すぐ使わないともったいない!という気分にすらなってくる。
気づくと、話に聞いた「DXの成功事例」をツールを使って実現することがゴールになっていたりするわけです。これは、「競合がこれでうまくいってるらしい!」とか「知り合いの経営者がこれでうまくいったらしい!」というパターンでも生じます。
さて、この意思決定プロセスにおける問題は、そのツールが自社のミッションやDX戦略とどう紐付いているのかがわからないことです。そして、他のDX施策やツールの選択肢と比較されず、優先順位も付けられていないことです。
対応策:暫定でもいいからミッションとビジョンを明らかにする
ではどうしたらいいでしょうか?ちゃんとミッションに紐付いたビジョンを描き、現状を把握し、戦略を立てましょう。話はそれからです。これらが完璧にならなくても、暫定でもいいから必ず作りましょう。少なくともミッションとの繋がりの中で目的の明確化ができ、他の選択肢と比較することができます。
失敗要因:ミッションやビジョンがスタッフに浸透してない
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DXの目的がイマイチわからず、スタッフがDXに積極的になれない/提案できない
-
経営判断の基準が毎回変わってしまいスタッフが困惑する
-
優先順位付けの根拠が弱く、スタッフやマネージャーが独自で判断できない
あるあるですね。ミッションやビジョンは「存在はしている」ものの、そもそもスタッフがそれを気にしていない。あるいは、経営層すらそこにコミットしてない。
そういうことは普通にあります。
こんな状況で、いくらミッションに紐付いたビジョンやDXを語っても、だれにも響かないのは当然です。
対応策:コミットできるミッションなのか確認し、業務のあらゆる面でミッションをうちだす
会社として存在しているわけですから、何らかの価値を世の中に提供していることは確実です。であれば、生み出している価値に対する共感は何かしらの形でできるはずですから、それを言語化できないということは無いはずです。
それをわかりやすく、伝わる形にまとめたらミッションになりますし、そこから理想的な価値の提供のあり方を突き詰めていけばビジョンが描けるはずです。
そこに人生をかけられる、というほどのものでは無いかもしれませんが、スタッフと顧客の共感を呼び起こし、結びつけることができれば十分です。
逆に、どんなに立派な言葉でも、響かなければ機能しません。
まぁ最悪、ミッションという形でなくてもいいので、DXの目的やそれを実現したビジョンというのを、提供している価値という観点からしっかりと表現し、スタッフに納得してもらうことが重要です。
できそうであれば、積極的にミッションについて考えるワークショップなどを実施してもいいでしょう。そういう雰囲気でないということであれば、顧客が喜んでいる事例とか、やりがいを感じられる事例とかを逐一共有しつつ、経営層が発しているメッセージを再確認して、ミッションから外れている部分がないかどうかをしっかりと確認してください。
経営層がミッションにコミットしきれていない場合は、かなり矛盾した目標や指示、ルールなどができていたりするものです。
失敗要因:課題の認識がおかしい
-
このUIをこうしてほしい!という要望をそのまま聞いてしまう
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トラブルの対処法ばかりを改善し、トラブルが生じる原因を放置する
-
目立った業務上の課題の改善ばかりに執着し、DX施策の選択肢が不足したり、優先順位が間違っている
業務上の課題というのは、様々な視点から捉えることができます。顧客のクレームひとつとっても、クレームを受け付けやすいUIが問題なのか、クレームを引き起こした人が問題なのか、引き起こしやすい業務プロセスが問題なのか、サービスそれ自体が問題なのか、本当に捉え方は様々です。
にもかかわらず、私たちは自分が想像できる範囲でのみ課題を認識してしまうことが多いです。これはよく、「現場からの改善提案」があるときに起こります。
戦略レベルの課題認識でもおなじで、私たちは少数だからこそ、経営レベルにおいても現場の個別の課題が非常によく目に付く結果、いくつかの偏った事例が戦略的な課題として認識される場合がしばしばあります。
そしてそれが、すぐに思いつくレベルでの課題認識にとどまることで失敗が起きます。
対応策:課題の本質を追求する
ここで重要なのは、より本質的な課題を見つけることです。
具体的には、「この業務の目的はなにか?」、理想的には「この業務はどうしてミッションに資するのか?」という観点から、徹底的に突き詰めていけばたいていは課題の本質に迫ることができます。
さらに、DXで課題を解決するときは、基本的に情報の流れに還元されることが多いです。ですから、5W2Hを使って理想的なデータのインプット、スループット、アウトプットに分けて分析していくと、自然と課題が見えてきます。
たとえば、顧客データの入力が課題だとします。
顧客データは最初メールで入ってきていて、それがスタッフの頭の中に入り、顧客対応中に多少の修正が入って最終的にCRMに入力される。それをみんなで分析していくわけですね。
まず、そもそも「入力しやすくする」という解決よりも、「そもそも自動的に顧客データが入る」という解決が望ましいはずです。前者であれば「入力に手間がかかる」のみが解決されていますが、後者であれば「入力漏れ/間違いが起きる」「入力までのラグがある」「そもそもデータ入力が手動である」などのより広い範囲の課題解決が可能です。
となれば、まずメールで入って来るのではなく、CRMに最初から入れば情報入力の漏れも間違いもラグもなくなります。そのうえで、修正が必要なデータだけをUIを上でわかりやすいところに表示しておき、必要に応じて効率化・自動化ができる機能などを実装しておきましょう。そうすれば、顧客対応中にデータの修正まで終了させることができますし、CRMを業務の中心に据え、他のDXにつなげることもできます。
一方、「データの入力がしづらい」という課題の認識のままであれば…ほとんど業務は改善されませんね。失敗とまでは言えないかもしれませんが、成果が出にくいDXの進め方です。
戦略的な課題認識の場合、こうした具体的な課題を漏れなく偏りなく集め、それらの課題の本質を突き詰めていくことが重要です。
そして、そうした本質的な課題に優先順位をつけていくことで、具体的な解決策やマイルストーンが明確になっていきます。
失敗要因:解決策がおかしい
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既存のツールの応用でできることを、新しいツールの導入で解決しようとしてして、業務が煩雑になる
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高くて総合力のツールを検討せず、安くて局所的な課題解決のツールをたくさん導入して、膨大な手戻りが発生する
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人がやったほうがよい部分までデジタルで解決しようとして業務の質が落ちる
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一つの解決案に囚われ、他の解決案やそのメリット・デメリットを比較考慮できていない
さて、課題の認識が本質に迫るものであったとしても、解決方法がおかしければDXは失敗してしまいます。
たとえば、「データが最初からCRMに入らない」という課題認識であったとしても、それを解決するために、メールのデータをAIで読み取ってクリップボードにコピー、RPAでCRMに無理やり入力、みたいな自動化の仕方をすると、膨大なコストがかかる上に非常に不安定です。
あるいは、DXだけで解決すべきでない場合もあります。特にコミュニケーション関係の課題はそうです。
戦略レベルにおいては特に、解決策というのは多岐に渡り、それを調べるだけでもコストがかかる上に、初期のリソースが少ないという制約からもなかなか解決策の選択が難しいのが実際のところです。
対応策:客観的に書き出すこと、多様性のあるメンバーで解決案を検討すること、とにかく知識と経験を積み選択肢を増やすこと
そもそも一人の人の頭の中だけでで複数のイメージを比較考慮することは不可能なので、基本的には必ず環境を利用してください。具体的には、書き出すこと、そして他の人と話をすることです。必要に応じて調査も行ってください。
客観的に理解できるように書き出し、語り、周囲の意見を取り入れつつ、自分の考えを冷静に見直す。不足している情報を補う。これが基本です。主観的なイメージだけで物事を判断することは慎まなければなりません。
このとき、相談相手に多様性があると、解決策が柔軟でROIの高いものになることが多いです。解決策を決定するときに最低限担保しなくてはならない条件は、「ミッションを実現するために、他の選択肢と比較して望ましいかどうか」が明らかであることです。
通常、なにかしらのトレードオフが必ず存在するので、それが自分の裁量を超える場合は必ず経営判断を仰ぐようにしましょう。
課題も多いですが、解決策というのは常に無数にバリエーションがあり、かつ思いついたらすぐに実行したくなってしまうのでどうしても比較考慮を怠りがちです。
また、実際のところ、自分の中で選択肢を持っていたり、「このくらいなら多分こういうツールがありそう」みたいな予想を立てるセンスだったりが必要になってきます。こればっかりは知識と経験を積み上げていくしか無いですね。場合によってはいろんなサービスの営業に話だけ聞いてみるとか、本当にROIが高ければもちろん外注してもいいです。
失敗要因:優先順位がついていない
優先順位というのは常に変動するものなので、定期的に優先順位を付け続ける必要があります。
しかしながら、この優先順位付けという作業は非常に脳のリソースを食うので、優先順位付けのためのリソースを確保し、それをパフォーマンスのよい時間に実行できるよう計画に組み込んでおく必要があります。
そして、このルーティンをこなすことができる人というのは案外少ないです。
特に経営レベルの優先順位づけというのはそうかんたんなものではない上、様々な利害関係の調整が必要になるので、どうしてもコストがかかりがち。
少しでも計画を怠ると、優先順位がよくわからないままDX施策が続行されることもあります。
こうなると、あとはもう仕事が山積みにされて気づいたら後回しになっており、何もかもが解決しない、誰もDXの効果を感じられない、DXに対して否定的な雰囲気が出来上がる、という負の連鎖が始まります。
対応策:計画するための計画を入れる
これを避けるためにも、とにかく定期的な優先順位付けのTODOを「計画」し続けてください。要するに、「計画をする時間」を最初からスケジュールに計画しておくのです。
目安としては、業務全体の1-2割の時間。毎週、半日~1日ですね。
業務全体のうちで本当に重要な作業というのはごく一部で、大半がやらなくていい作業か省略可能な作業です。
本当に重要な業務だけに集中できるようになるなら、そのくらいかけても、十分にもとが取れます。むしろ、これをやらないから業務に埋もれることになります。
ちなみに、優先順位をつける作業にはタスクの進捗把握、今後のタスクの掘り下げ、期待値の再評価といった非常に重要なサブタスクが含まれており、ただ順番に並べるだけではありませんよ。
個人でも組織でも、定期的な優先順位付けの時間を怠ることは決してあってはなりません。
組織においては、優先順位がわからなくなるごとにそれをMTGのアジェンダとして書き溜めておき、MTGの度にそれらのアジェンダをすべて確認しきるようにするとよいです。具体的な事例をベースに優先順位を問われれば、比較的スムーズに理想と最低限が明確化でき、優先順位付けができるからです。
その上で、ROIを比較しながらより大きなレベルでの優先順位を判断するように習慣づけましょう。(ちなみに、ファシリテートがとても大変です)
施策の実施方法が悪い
どんなに優れた課題認識と解決案があっても、それを実行できなくては意味がありません。
また、通常の場合、特に解決案というのは「やってみないとわからない」ところがかなりあり、その部分を素早く仮説・検証していく必要があります。
これがうまくいかないと、実施の段階で頓挫し、DXが失敗と相成ります。
失敗要因:仮説と検証のプロセスがない
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とりあえずCRMを入れてみたが、いまいち業務効率が上がらない
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IP電話の導入を検討したが、いまいちよくわからないので導入しなかった
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営業の業務フローに細かい修正を入れたが、検証を怠ったために後で重大なデータ欠損が生じた
前述の通り、「やってみないとわからない」部分を素早く検証していく作業はDXにおいて非常に重要です。
問い合わせをCRMに直接入れる方法も、なんとなく実装方法はわかっても実装してみると細かい仕様上の問題が発生するかもしれません。また、実際に直接データをCRMに入れると、よきせぬ業務フロー上のトラブルが生じるかもしれません。
こうした状況を放置せず、素早く目的にあった形に修正したり、別の解決策を考え直したりする、という作業を継続する必要があります。
対応策:仮説と検証のプロセスを仕組み化する
最も基本的な対応は、しくみ化です。あらゆる施策において仮説と検証は必要なので、これはかならず仕組み化しておきましょう。
具体的には、施策を作るためのフォーマットを作ってしまうことです。スプレッドでもプロジェクト管理ツールでもなんでもいいですが、施策についての「5w2h」に加えて、そもそもどのような仮説をもとにこの施策が実施されているのかを書く欄を設けます。
そして、施策を実施するTODOを作成するとき、最初からそこに検証のTODOを入れてください。どういう基準で何を検証するのかを最初からTODO化しておきましょう。
また、忙しいとだいたいそのあたりがおざなりになってしまうので、できればDX関係者のMTGのアジェンダとして、検証結果をお話するTODOを入れておき、期日を切っておきましょう。
ちなみに、大きな変更を行うときはいわゆるPoC(Proof of Concept:概念実証)を行う場合もあります。これをしっかりやっていくことで、致命的なトラブルを防ぎつつ、必要以上に足踏みせずに素早くDXを進めていくことができます。
小さな組織だとあまりPoCに時間をかけるという習慣はないかもしれませんが、あまりに仮説が積み重なっているときや、影響の大きな変更のときは、面倒でも小さく軽く試してみることをおすすめします。
失敗要因:PDCAが回ってない/プロジェクト管理ができていない
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単発の施策で満足してそれ以上先に進まない
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ある上で生じた課題が他のプロジェクトでも 延々と再現され続ける
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うまく行かなかった施策を前提に上位の目標があり、それを修正しないのでいつまでも達成できない
最後に、DXのプロセス全体の管理です。これができていないと、大規模なDXには決して到達することができません。
DXの施策は通常かんたんなものからやっていきますが、本来それらはより上位の目標やミッションに紐付いています。そうした上位の目標やミッションを実現するためには、単発の施策ではなく、複数の施策を計画的に行っていく必要があります。
個別の施策で見えてきた課題や改善案を、しっかりと次の施策に、ひいてはより上位の目標やミッションに活かしていくことができなければ、DXという複雑なプロジェクトを成功に導くのは難しいです。
対応策:プロジェクト管理ツールを導入して、まずはそれを中心に業務を回せる組織にする
これは後述しますが、小さくDXを始めて前向きな雰囲気を作り出したあとは、個人的にはすぐにプロジェクト管理・セルフマネジメントができる組織を目指すことをおすすめしています。実際問題、これはそこそこハードルが高いのですが、費用対効果で言えばおそらく最も高いです。会社の次元が一つ上に上がります。
逆に、これなしで重たいDXの施策を回そうとすると、スタッフがキャパオーバーになって大体頓挫します(とても辛いです)。
そのための最もかんたんな方法が、プロジェクト管理ツールの導入と、それを中心としたタスクの一元管理、セルフマネジメントです。コストは掛かりますが前向きに検討してみてください。
DXが持続しない/会社としてDXを身に付け切れない
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DX推進部が静かになったら急にツールの利用が止まる
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コンサルタントが来ているときだけDXが動く
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現場を踏まえた価値あるDXがいつまでたっても始まらない
これまで挙げてきたような失敗要因を積み重ねた結果、DXという「文化」が会社に定着せず、トップダウンで指示したときだけ漸く少し変化がある、というような状況になっていきます。これを放置してしまうと非常に危険で、そのうち名ばかりの「DX実施企業」になってしまいます。
投資したコストを回収できなかったり、環境の変化に適応しようとするたびに、毎度イニシャルコストが膨大にかかるということであれば、率直に言ってDXは失敗だったと言えるでしょう。
こうならないためにも、徹底的に会社全体を巻き込み、プロジェクト管理のスキルを高めて、すべてのスタッフがDXについて考えているような状況を作り出しましょう!
忙しい中でも失敗しないポイント
失敗要因と対応策を並べましたが、少し数が多くなったので、軽く整理と補足をしておきたいと思います。これ以降の詳しい手順については、この記事を参考にしてください。
とにかく人と組織の状態を最重要課題として扱い続ける
様々な失敗要因や対応策がありましたが、本当に重要なのはここです。
人を見続けること。
前述の通り、中小企業の基本戦略は、基本的にこの「リソース不足」をごまかしながら、早急に「致命的な失敗を起こさない人と組織」を生み出すことです。そして理想的には、大量の「リソース」を投入しなくても自ずからDXが進んでいく組織に変化していくことです。
DXではしばしば道具であるシステム周りに意識を集中させてしまいがちですが、最終的にそれを活用するのは人。彼らが道具を使えなければ、どんな素晴らしい道具もその目的を達成することはできません。道具が悪くても、使い手が良ければ目的を達成できますし、別の道具に切り替えるのもスムーズです。
そして、人の状態というのは終わりなく変化が生じていきますから、常にここには気を配り続けることが必要です。
経営者主導で始め、まずはDXのための環境を作ることに注力する
まずは、経営者主導で始めることです。そして人に注力する。DXのための準備が万端になるように環境を整えていく。
これが第一歩です。
優先順位付けを徹底して十分なリソースをあける
経営者主導で始めることができれば、優先順位付けを徹底するのはかなり楽です。とはいえ、マネージメント層に対してしっかりDXの優先順位を認識してもらい、やらないことを決めてそこにDX関連の作業をねじ込むには、それなりにコストがかかります。
しかしながら、そうしたコストをいとわず、徹底的に優先順位付けとその意義の共有を行い、DX担当者も持続可能な形で参加できるようにしておきましょう。
みんなが喜ぶ施策からスタートする
他の記事でも言及していますが、とにかく重要なことはスタッフがDXに対してポジティブな印象を持つことです。
少しでもオペレーションに強制的な変化が生じるようであれば、ITが苦手な人や保守的な人から協力な反発にあい、DX全体がそこで頓挫してしまいかねません。
とにかく、単純な業務効率化など鉄板の施策を考え、実行するところからスタートです。
プロジェクト管理ができる組織を目指す
いくらかDXの施策を実施し、DX担当としての仕事や、各チームの協力者、そして各スタッフの状態などの全体像が見えてきたら、プロジェクト管理ができる組織を目指しましょう。
DXが難しい原因の一つは、ほとんどすべてのDXの施策に対して、実行する人やチームごとにPDCAを回した上で、そこで出た改善点を会社全体で統合・修正し、再度標準化していかなければならないことです。
そして、ほぼすべての部署にとって、DXの施策というのは「新しく並行運用しなくてはならないプロジェクト」にほかなりません。
業務のオペレーションが変化するとなると、最悪会社の生産性が一気に低下する可能性さえあります。
こうした事態を避けるため、私が推奨しているのは「タスク管理」、「セルフマネジメント」、そして「プロジェクト管理」ができる組織体制を固めることを初期のDXのマイルストーンにすることです。
体制が整ってきたらしっかりと戦略を固めていく
プロジェクト管理ができる組織を目指し始めるあたりで、おそらくある程度DXに対する会社の反応や必要なコストなどが見えてきて、戦略を固め始めることができると思います。DX戦略とは、会社のミッションに向かってDXしていくための、大きな視点での計画のことです。技術・理論を指すこともあります。
具体的には、会社の文化や価値観、ビジネスモデル、業務内容や業務プロセス、組織体制やスタッフの顔ぶれなどなど、会社のあらゆる側面からビジョンを描き、計画や施策を考えていきます。
戦略の固め方
これについては、詳しくは以下の記事を参考にしてください。戦略とはなにか、なぜ必要なのか、といったところから、具体的な作り方までステップバイステップでTODOが解説されています。
ざっくり言えば、ミッション、ビジョンを軸にブレストし、現状の課題を徹底的に洗い出して優先順位付け、会社の文化や価値観を確認したら、あとは具体的な計画に落とし込んでいく感じです。
すべてのチームにDX担当者を置く
トップダウンだけではDXはままなりません。失敗しないためには、ボトムアップのための仕組みを、誰の目にもわかるようにつくりあげることが重要です。
なにより、当面の間は深刻なDX人材不足なわけですから、それを解消する上でもこの施策は必須です。
こうしてスタートを切って、徐々に業務効率が改善されてくると、リソースに余裕が出てきて、戦略の幅が広がります。
そうしたなかで、人材の採用や教育を視野に新たな行動を起こしていくことで、当初は不可能に思えた大きなDXを成し遂げることができるはずです。
組織体制や人材・教育のポイントについては、以下の記事を参考にしてください。
いますぐできること
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現在会社が抱えている失敗要因や失敗事例をリストアップしてみる
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それを具体的に解決するために、何ができるか書き出してみる
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DX戦略についての記事を読む
まとめ
以上、DXの失敗事例とその対応策でした。かなり網羅的に失敗事例を見ていったので、きっと何らかの対応策をイメージできたのではないでしょうか。
失敗要因のポイントは…
- 初期のリソース不足は徹底的に優先順位を付けてやりくりする
- 致命的な失敗要因のほとんどは、中小企業のほうが解決しやすく有利な立場
- 本質的な失敗要因は技術ではなく、人や組織に関するもの
- もちろん、戦略、施策の実施についても失敗要因になる
失敗しないポイントは…
- とにかく人を見続けること
- あとは、経営者主導でDXの環境を整えていき、小さくスタートすること
スタートダッシュを切って徐々に効果が出てきたら、リソースを増やしてより大きなDXを実現していきましょう!
最後までよんでいただきありがとうございました。
ひとりDX全体のナビゲーションがほしい場合は、ひとりDXへの道を参考にしてください。
よいDXを!