プロジェクト管理ツールの導入方法と6つの注意点
「どうしても使ってくれないスタッフがいる」
「今までのやり方とプロジェクト管理ツールを並行して使っていて二度手間」
これは、プロジェクト管理ツール導入において最も一般的な課題です。なぜでしょうか。
プロジェクト管理ツールは本当に重要です。DXが前提とされる今後のビジネスの流れの中で核となるツールだからです。
会社の生産性を文字通り倍増させ、変化の激しい現代に適応できる組織を作り出せる可能性を秘めています。
プロジェクト管理ツールのメリットについてはこちら。
しかしながら、プロジェクト管理ツールを使うことで、仕事の進め方、マネジメントのあり方は、根本的な変化を余儀なくされます。
スタッフは、「何も考えずに働く」ということが決して許されず、常に業務の目的と優先順位を意識した効率的な働き方を求められるようになります。
これは会社にとって望ましい変化であり、そうなれれば最高なのですが…こうした「スマートな働きかた」が苦手な人達、「やっていることが見えてしまう」と困る人達というのが出てきて、大きな抵抗に合うのが一般的です。
「プロジェクト管理ツールを使いたい」と思っている側からすると全く理解できませんが、この抵抗感というのは思った以上に根深いもので、場合によってはその人の生き方につながっていたりします。
では、こうしたスタッフの抵抗を乗り越え、素晴らしい導入をするにはどうしたらいいのでしょうか?
この記事では、基本的な導入までの流れを紹介しつつ、導入を成功させるためのポイントを紹介していきます。
導入までの流れ
プロジェクト管理ツールを導入すれば何らかの効果が期待できるのは当然ですが、準備なく導入してはいけません。導入にあたってはしっかりと以下のプロセスを踏んでおきましょう。
現状把握
まずは、既存業務の現状把握がスタート地点です。
「すでに見つかっている課題」だけではありません。プロジェクト管理ツールはDX戦略の中核ですから、そもそものDX戦略が明確になるように現状把握を進めてください。
DX戦略についてはこちら
会社の目的やそれに付随したビジョンに対して、今どの様なギャップがあるのか。これは経営レベルのスタッフがしっかりと書き出してください。ここが最も重要性が高いです。
短期・中期的なマイルストーンに対して、具体的にどの様な課題があるのか。これは各部門ごとに状況を取りまとめ、一度報告書の形にまとめておきましょう。
既存業務の中で、見過ごされている課題はないか。これについては、理想的にはすべてのスタッフから吸い上げましょう。
ざっくりと理想とのギャップや課題が見えてきたら、最後にシステム論的な観点から今一度組織を見直してみましょう。
システム論的に会社全体を見直す
「世界はシステムで動く」によると、システム(つまり会社組織)に対する介入のインパクトの大きさは、以下のようになります。
12 数字:補助金、税金、基準などの定数やパラメーター
11 バッファー:フローと比較した時の安定化させるストックの大きさ
10 ストックとフローの構造:物理的なシステムとその結節点
9 時間的遅れ:システムの変化の速度に対する時間の長さ
8 バランス型フィードバック・ループ:そのフィードバックが正そうとしている影響に比べてのフィードバックの強さ
7 自己強化型フィードバック・ループ:ループを動かす増幅の強さ
6 情報の流れ:「だれが情報にアクセスでき、だれができないか」の構造
5 ルール:インセンティブ、罰、制約
4 自己組織化:システム構造を追加、変化、進化させる力
3 ゴール:システムの目的または機能
2 パラダイム:そこからシステム(目標、構造、ルール、時間的遅れ、パラメーター)が生まれる考え方
1 パラダイムを超越する 「”真実”であるパラダイムなど存在しない」
私たちは解決策がすぐに思いつくような目先の課題に目が行きがちですが、そもそもその課題はより大きな課題から生み出されています。
プロジェクト管理ツールの導入、ひいてはDXというのは、会社をゼロから作り上げるほどの大きな変化をもたらします。いい機会なので、それぞれの観点から会社の状態を見直し、より優先順位の高い課題を明確にしていきましょう。
要件定義
課題がある程度明確になったら、会社のDXについての戦略やプロジェクト管理ツールの位置づけも見えてきているはずです。目先の課題から出てきた要件に惑わされず、時代の変化に適応し続ける会社を目指すために必要な要件から順に、しっかりと書き出していってください。
管理ツールの要件として特に気にしておくべきなのは以下の点です。
- どのようにコミュニケーションをしていくのか
- タスク上のチャットやナレッジベース、ファイル共有など
- どのようにスケジュール管理や工数管理をしていくのか
- ガントチャート、カンバン、カレンダー、WBSなど
- どのように人や組織のマネジメントをしていくのか
- 目的とプロジェクト/タスクの紐付け、タスクの一覧や個別タスクの状態の見え方、権限制御など
すべての部門を巻き込んで要件を確認すること
正直なところ、部門ごとに異なるツールを使うようなことになると、DXはかなり難しくなります。
大企業ならまだしも、特に中小企業であれば、ツールが乱立している状況はシステム担当の許容範囲を超え、かなりの可能性でDXの失敗に繋がります。
ですから、可能な限り全スタッフが同じツールが使え、プロジェクトやタスクを一元管理できるよう、すべての部門を巻き込んで要件を定義していきます。
もしあなたが部門やチーム単位で導入しようと検討しているなら、ツールの移行や完璧な連携を想定しておいてください。そして、できればシステム担当部門、ないし経営層と相談をしておくことをおすすめします。
ゼロベースで業務を考え直すこと
また、要件を決定するときは、業務自体をゼロベースで考えるようにしてください。ツールを使った業務フローというのは根本的に異なります。
- まず、既存の業務を「絶対にやらなければならないこと」と「やらなくてもよいもの」に分けます。
- そこから更に、「絶対にやらなければならない」と思い込んでいるものを徹底的に減らしていきます。
- 最後に、「なぜそれをやらなくてはならないのか?」を考え、他にどの様な形でその「理由」を満たすことができるのかを考えてください。
環境は劇的に変化しますし、会社も徐々に変わっていきます。業務が変わらなくてよい理由がありません。
理想的には、ツールが提供する「ベストプラクティス」をスムーズに受け入れられる程には柔軟な要件になっていることが望ましいです。
選定
要件が明確になれば次は選定作業です。
会社全体のDXをするという場合は(ほとんどの会社がここに当てはまるはずですが)、基本的には特定の業務に特化しているものよりも、汎用的なものを選定していくことになると思います。
プロジェクト管理ツールには、主にクラウド製品とオンプレミスの製品がありますが、よほどセキュリティにこだわりがないのであれば主にクラウドで問題ないでしょう。
ツール選定の際には、いくつかポイントがありますが、特に注意してほしいのは以下の点。
- ROI(費用対効果)が十分であること
- プロジェクト管理ツールであればだいたい問題ないです
- 安すぎるもの、マイナーすぎるものは避ける
- 国産のツールは連携や拡張性に注意
- 目先の業務プロセスだけで要件を出すとニッチな国産製品を選びがち
- デザインは様々な意見を聞いて評価すること
ツール選定のポイントについては以下の記事で詳しく解説しています。
導入
選定が終われば後は導入です。
特に中小企業においては、導入作業を外注するというのはあまりおすすめしません。なんなら、システム管理部門が一方的に導入というのもおすすめしません。
すべての部門に普段の業務と兼任の導入担当者を置き、会社一丸となって導入すべきです。
というのも、プロジェクト管理ツールについてはかなり現場での運用に幅があるものであり、その設定も社内で柔軟に対応し続けるべきものだからです。まな板や包丁、お鍋やフライパンを毎日外の人に手入れしてもらいますか?
そもそも、プロジェクト管理ツールの設定というのはそこまで難しいものではないです。最初にアドバイスをもらうのはとても良いと思いますが、実際の設定や運用方法の具体的な検討・修正については自社で行いましょう。
導入については、記事後半で更に詳しく説明します。
効果検証
導入する前の時点から、もっと言えば要件を定義する段階から、どの様に効果を検証しておくか考えておきましょう。
チーム内でのアンケートなのか、MTGなのか、業務効率の計測なのか、売上なのか、なんでもいいです。会社の目的にあった指標を設定し、改善点を洗い出して日々改善していかなければ、どんな優れた道具も意味をなしません。
また、道具自体にアップデートがかかることもあるので、効果検証で見えている現状を踏まえて、積極的に運用方法を検討し、共有していきましょう。
導入時の6つのポイント
導入までの流れはざっくりと理解できたと思いますが、やはり注意が必要なのは導入作業。
記事の冒頭でも触れたとおり、ここで間違えてしまうと会社組織が崩壊する可能性さえあります。
しっかりと準備して、驚くような効果を生み出しましょう。
先にDXが始められる環境を作っておくこと
まずはじめにお伝えしたいことは、まだDXを始めていない会社では、決してプロジェクト管理ツールを導入してはいけない、ということです。
プロジェクト管理ツールはそれなりに導入難易度が高いので、まずは最低限DXを始められる環境を整えてください。
具体的には以下の内容です。
- ITを使ったちょっとした業務改善に挑戦し、DXが業務を楽にしてくれることを全スタッフに実感してもらうこと。
- このプロセスのなかで、DXを進めるための「しくみ」や「組織」を徐々に社内で構築しておくこと。
- 同様に、チームやスタッフのITへの適応能力や様々な業務の現状を吸い上げ、DX戦略を立てること。
「DXに前向きな雰囲気」と「フォローアップするしくみ・体制」、そして「現状を踏まえたDX戦略」がない限りは、決して普段の業務プロセスに影響が出るようなDXを始めてはいけません。
特に、プロジェクト管理ツールなどの劇的な変化を及ぼす様なツールの導入はかなりの高リスクです。
DX全体の進め方については以下の記事を参考にしてください。
全スタッフに目的をしっかり伝えること
DX戦略が明確になっていれば、プロジェクト管理ツールが使えるようになったらどの様なワクワクする未来が待っているのか、会社のミッションやビジョンにどうつながるのか、しっかりと伝えることができるはずです。
プロジェクト管理ツールに抵抗感のあるスタッフの立場に立って考えてみましょう。
ただでさえ、今まで自分がやってきたやり方を変えさせられて不満な状況です(現状維持バイアスで人は基本的に変化を嫌います)。
更に、自分の苦手なITを使うと来た。まるでITが使えない自分が相対的に無能だと感じられ、否定された気持ちになりますね。
場合によっては、自分が今まで怠惰にやってきことがバレてしまうと、自分が計画的に、効率的に業務を進めるのが苦手だとバレてしまうと、そういう恐怖感を感じている人も多いはずです。
スタッフに対する動機づけ
そんな状態ですから、せめてツール導入に前向きになる「動機」を与えてあげる必要があります。
第一に、自分が共感するミッションに目の前のツールが紐付いていること。
第二に、自分たちが目指すビジョンにそれがつながっているという「共通の認識」を持っていること。
さらに、ミッションやビジョンに対してあまり積極的でない人にとっては、
第三に、自分がお金をもらっている会社にとって「大事なこと」だと納得できること。これができないと評価が下がると認識できること。
第四に、自分の業務が具体的に楽になる、改善すると感じられること。
こうしたことが重要です。これができていたとしても、どうしても能力不足で脱落していく人は出てきてしまいます。
DXの最大のボトルネックは人です。「各スタッフの認識」という非常に主観的な要素ですが、これをしっかりと取り扱わない限りは決してプロジェクトは成功しません。
全ての部署を巻き込んで導入を始めること
何度も言いますが、ボトルネックは人です。
優れた道具を「使いたい」と思ってもらい、「使いこなせる」ようにしなくてはなりません。
そして、人間、人から強制されたものには前向きになるのが難しい。それが組織単位で「導入したくない」という結束が生まれてしまうと、もはや導入失敗は確実です。
最初からすべての部署を巻き込み、意見を吸い上げ、「自分たちで導入を進めているんだ」という感覚を持ってもらうことが重要です。
もちろん、しっかりと意見を吸い上げ、適切な要件を定義したり、運用方法を決めることも重要です。
ボトムアップの協力体制を築くこと
先程軽く触れましたが、導入フェーズにおいては全社一丸となって導入すべきです。経営主導で始めることはもちろん必須条件ですが、それだけでゴリおししても絶対にうまくいきません。
ここでおすすめしたいのが、すべてのチーム、理想的には3-4人ごとに一人、普段の業務と兼任で、DX推進の担当者を設定してしまうことです。
ITを使ったかんたんな業務改善を通して、それができそうな人に各チームのマネージャーが目星をつけておけるよう手配しておいてください。
そもそも、すべてのチームで業務内容というのは異なります。
また、ツールを使っていてわからないことや改善してほしいことというのは絶対に出てきます。
こうしたとき、「普段話をしている人」とコミュニケーションを取るのと、「見知らぬ担当部署」にコミュニケーションを取るのでは、雲泥の差があります。
また、そもそもなんのフィルターもなしに担当部署に連絡が来てしまうと、DX担当者は過労死してしまいます。
そうした兼任担当者を集めて、月に一度くらいの頻度で意見交換や今後の方針決定をするMTGを行いながら、会社全体で主体性を持って進めていくのがやりやすいです。
DXを進めるためのしくみや人材のポイントについては、以下の記事を参考にしてください。
基礎的な操作が定着するまで徹底して研修とフォローアップをすること
プロジェクト管理ツールには、本当に様々な機能があります。
そうすると、導入を主導している側としては、「はやく理想的な業務プロセスを実現したい」という気持ちが先行して、一気にすべてを実現したい気持ちになります。
とてもよくわかります。
しかしながら、軍隊でも遠足でも、一番足の遅い人に合わせて進みますよね。
要するに、私たちは「プロジェクト管理ツール反対派」ないし「消極派」の人たちに合わせた計画で進めていく必要があります。
特にプロジェクト管理ツールの導入においてはそれが顕著で、「ちゃんと全員が最低限の機能を使えている」状態にならなければ、一元管理が成り立ちません。
おそらくどのプロジェクト管理ツールでも共通しているだろうと思われる基本的な操作としては、
- 自分のタスクの管理
- コミュニケーションの管理
を漏れなくできるようになること。
複雑な操作はいいので、これを毎日漏れなくできるようになるまで徹底的に研修し、フォローアップしていきましょう。それが定着する頃には、ほとんどのスタッフがプロジェクト管理ツールの効果を感じられる様になっているはずです。
逆に、一人でもツールを使えてない人がいると、二度手間三度手間が発生し、チーム全体がストレスを感じることになります。そうした状況は絶対に避けなければなりません。
効果検証と追加のトレーニングを計画的に行っていくこと
上述の通り、最初のステップは基本操作の徹底です。
それが漏れなくできるようになっているのか、そしてそれが具体的にどの様な効果を生み出しているのか、これを毎週のように徹底的にチェックしていきます。
ある程度効果が出てきたと思ったら、アンケートに回答してもらって、それぞれのスタッフが効果を自覚でき、かつ改善案を考えられるように誘導していきましょう。
その上で、当初設定していた指標を見直し、計画的に追加のトレーニングを行っていきます。
タグやタイムラインなどの高度な機能を利用していったり、外部のツールと連携したり、マネジメントのためのルールを設定していったりなどです。
このプロセスを延々と続けていくことができれば、業務効率が倍になるというのも夢ではありません。
すぐできること
- 会社のDX戦略を書き出す
- 部署ごとに「絶対に譲れない要件」と「あれば嬉しい要件」を区別して書き出す
- なぜその要件が必要なのか書き出す
- どんな指標で効果を検証できるのか書き出す
- 全社で協力体制を作れないか検討
- 導入計画を書き出す
- プロジェクト管理ツールのメリットの記事を読む
- DX戦略についての記事を読む
- DXツール選定のポイントについての記事を読む
- DXの進め方についての記事を読む
- DXを進めるためのしくみや人材についての記事を読む
まとめ
以上、プロジェクト管理ツールの導入方法と6つのポイントでした。
導入までの流れは、現状把握から始まり、要件定義、選定、導入、効果検証と続きます。
プロジェクト管理ツール単体として考えるというより、DX戦略全体を踏まえて丁寧に前に進めていってください。
導入時のポイントは以下の6つ。
- 先にDXが始められる環境を作っておくこと
- 全スタッフに目的をしっかり伝えること
- 全ての部署を巻き込んで導入を始めること
- ボトムアップの協力体制を築くこと
- 基礎的な操作が定着するまで徹底して研修とフォローアップをすること
- 効果検証と追加のトレーニングを計画的に行っていくこと
最も避けるべき事態は「スタッフがDXを拒否してしまうこと」。
どんなにITが得意なスタッフたちだと思っても、「プロジェクト管理ツール」というのは非常に考えることを要求され、かつ業務プロセスにも大きな変化を要求されます。
とにかくしっかりと環境を整え、ゆっくり確実にすすめていくことが重要です。
余談ですが、特に私がおすすめしているプロジェクト管理ツールはAsanaです。解説記事を書いたので、よければご覧ください。
よいDXを!