【中小企業向け】DX戦略策定の5つの基本と8つのステップ
DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれる中、それを実現できている企業はごく少数。
特に中小企業では、目を覆いたくなるような状況です。しかし、あなたはきっと、それをなんとかしようとこの記事にたどり着いたんですよね!
DX戦略というと多くの記事では「DXの始め方」のように書いてあることもありますが、ぶっちゃけほとんどの中小企業ではしっかりとした戦略の下DXを始めるのはかなり難しいです。
なぜなら、専任の担当者も、DXを進めていくための文化やしくみもない状態で、調査もできずにいきなりまともな戦略を立てることはできないからです。
もし、ないないづくしの状態からDXの始め方を知りたい場合は、この記事の前に以下の記事を読んでおくとベターです。
もちろん、いったんざっくり戦略についてイメージを持ちたい、ということであればもちろんこの記事から読んでもらってもOKです。
この記事では、一応DX担当者をアサインして、ちょっとしたDXに対する会社の反応が少しずつ見えてきた状態から、具体的にどう手を動かして意味のある戦略を立て、計画にまで落とし込んでいくのかについてお伝えしていきます。
DX戦略とは
会社のミッションに向かってDXしていくための、大きな視点での計画のことです。技術・理論を指すこともあります。
つまりどんなのが戦略なの…?
「ペーパーレスにする!」とか?
それはどっちかというと「戦術」かにゃ。
基本的にはもう少し大きな視点での「戦略」がないとDXはうまくいかないにゃ。
正直、かなり定義の幅が広いですが、
-
「オフィスを撤廃し、業務データをSFAとグループウェアで一元管理、顧客とのコミュニケーションも原則オンライン化する」
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「対面でのサービス提供ではなくオンラインを主力とし、顧客向けのモバイルアプリケーションを開発しサービスの中心に置く」
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「BtoCのビジネスモデルを非主力化。モバイルアプリケーションを開発しCtoCまたはCtoBの仲介業務を行うことで業界のビジネスモデルを転換する」
みたいな大きなレベルでのものを指すことが多いです。
また、こうした理想的なビジョンを実現するための計画やマイルストーンについても、「戦略」としてある程度くくられることが多いです。
具体的には、会社の文化や価値観、ビジネスモデル、業務内容や業務プロセス、組織体制やスタッフの顔ぶれなどなど、会社のあらゆる側面からビジョンを描き、計画や施策を考えていきます。
ざっくり長期的なビジョンだけでも戦略と言えなくもないですし、Q単位の目標くらいまで固めてあっても戦略の範囲でしょう。月とか週単位の目標まで行くと、戦術に近づいてきますが。
なぜDX戦略が必要なのか
まずDXそれ自体の必要性やメリットについて軽く説明し、さらに戦略の必要性について説明します。不要な方は飛ばしてください。
DX自体が必要である理由
DXの必要性は色々な角度から語ることができますが、中小企業の私たちにとって最も重要な理由は「DXをしないと、生き残れないから」です。
実際にDXを軌道に載せつつ、まだDXができていない会社のお手伝いをしているとわかるのですが、スタッフが生み出す価値が根本的に違います。
業務効率化
たとえば、生産性が倍どころでは済まないくらい違います。例えばメール一つ取ってみても、
ベタ打ち(15分)
↓
テンプレートと辞書を使った入力(1分)
↓
自動メール(0分)
と、このくらい違いがあるわけです。一日10通定型文に近いメールを飛ばしていれば、それだけで2時間半近い節約になります。
顧客情報の管理も同じです。複数の人間で業務に取り組んでいるなら、データを探す時間、データを読み取る時間、伝わらないコミュニケーションなど、あらゆる時間が節約できます。
その時間を、本当に価値のある作業に費やすことができます。
環境への適応力(ユーザーニーズ、業界)
また、ユーザーのニーズや環境の変化は近年ますます激しくなっています。
サービス業であればコミュニケーションスタイルの変化に対応していく必要がありますね。製造業であっても顧客のニーズを読み取らなければなりませんし、製造工程の自動化・効率化に置いていかれればそのうち競争さえできなくなります。
そもそも、サービスのオンライン化やオンライン販売などのように、根本的なビジネスモデルの転換を余儀なくされる可能性もあります。
環境への適応能力を十分な状態に保つには、今後DXは不可欠になっていくでしょう。
その他、業務の優先順位付け、経営判断に必要な情報収集、マネジメント、様々な形で他社に差を着けられることになりますから、よほど市場が上向きでない限り、長期的に生き残るのは難しいのではないかと思います。
逆に言えば、チャンスでもあるわけですが。
そこに戦略が必要である理由
DXの必要性はわかったけど、とりあえず目の前の課題を一つ一つこなしていくだけではダメなの?
という人もいると思います。
社長さんの中にはとにかく行動力が高いタイプの方もいらっしゃいますから、特にワンマン経営であれば戦略とか計画がほとんど意味をなさない会社もあると思います。
でも、戦略は必要です。
会社全体が生まれ変わる
まず、DXというのは通常、「部門を横断した会社全体の変化」を余儀なくされます。
そんなとき、DXの戦略やそれに基づいた計画、そして社内での優先順位付けがなければどうなるでしょうか?
当然、部門間での軋轢が生まれ続け、良くて会社の雰囲気が悪化、よくあるケースでは普通に生産性が落ち、離職者が出始めます。
特に、目先の課題を解決するために、「あれもこれも」といって大きなシステムを導入したりすると…目も当てられない状況が普通に生じます。
それ以前に、会社の方針や目指すところがわからなければ、安心してついていくことができませんし、目的を考えて効率よくDXを進めることができません。
長期的なプロジェクト
DXというのは、通常かなり長期的なプロジェクトになります。業務の基盤となる部分であれば、一年以上の長期に渡って導入から定着まで進めていくこともザラです。
しかし、一年を通してなんのトラブルもない会社というのはありえません。目先の課題は目まぐるしく変わり、環境も変わり、すべきことも変わる。
目の前の課題だけに注力したり、競合がやっているからととりあえず真似したりすると、だいたいまともにプロジェクトが終わらないまま放置され、大量のツールやルールが積み上がっていきます。
もちろん、大きなプロジェクトは形にさえならず、大量の工数やお金を垂れ流すことになります。
そうではなく、潜在的な課題を含めて本当に重要な課題や実現すべきビジョンを明確にし、ある程度柔軟性のあるDX施策を考え、優先順位をつけて最後まで粘り強く取り組む。
これが重要になってきます。
戦略がないとリスクが致命的に
プロジェクトが大きければ、それが失敗したときのリスクも当然増大していきます。
営業やマーケティングであれば途中で戦略を切り替えるというのもある程度柔軟にできるかもしれません。しかし、システムというものは基本的にかなり柔軟性が低く、イニシャルコストが高いです。
要するに、最悪の場合はその高いイニシャルコストがまるまる無駄になるということです。なんなら、スタート地点に戻るために更にコストがかかったりします。
よく、
○○銀行がシステム開発会社とトラブル
などといったニュースを目にすることがあると思いますが、数十億円かけたシステムが使えない、みたいなことも普通に起きます。
中小企業でここまでの開発をすることはないかもしれませんが、以下のような事例は枚挙に暇がありません。
- 目下一番安そうなシステムを導入する
- 不便な部分を色々設定したり開発したりする
- 結局不便でオペレーションが回らず売上や業務効率が低下、他のシステムとの連携もできないため再度乗り換え
- → 導入工数と費用が無駄に。膨大な機会損失や、データベースの再構築、その他再移行のコストが発生。
これは会社にとって許容できないレベルのコストになることもあり得る状況です。
優先順位付けをすることでDXを効率化
個別の課題に対する解決の目標だけだと、複数の施策が競合したときに優先順位が付きません。
遠足は一番足の遅い人に合わせて進みますね。
施策に関係するチームの誰か一人でも優先順位の付け方が違うと、その人に合わせて施策も遅れます。
後回しにされ続ければ、最悪の場合、どの施策も完了しないことすらありえます。よくある光景です。
戦略とともにビジョンを明らかにすることで企業文化の形成を促せる
戦略が明らかで、そのビジョンが会社全体に伝わることで、DXに対してモチベートされますね。
そうしてわくわくするビジョンを見ながらみんなで努力することで、自発的にDXに取り組むことができるようになります。
トップダウンだけではなく、ボトムアップでのDXが始まるということです。
戦略がなければ、これは決して起こりえません。なぜなら、せっかく現場でのDXが提案されても、部門間での対立を解消する仕組みがないからです。
こうしたことの積み重ねで始めて、適応能力の高い企業文化の形成を促すことができます。
DXだけでなく、戦略を定めることの重要性がわかったところで、戦略の作り方を見ていきましょう。
DX戦略を考える上での基礎知識
DX戦略を作る!といっても、具体的にどんなものが出来上がればいいのかわかっていないと話が進みません。
まずは、出来上がりについての重要なポイントを押さえていきましょう。
ミッションやビジョンが必要
DX戦略はそもそも、「ミッションを実現するためのもの」です。
それが暗黙の了解で「利益の最大化」になっている会社もあるかもしれませんが、これが会社全体で明確に共有されていなければダメです。
肉体改造の如く、会社全体の改造を行うDXにおいては、大きな傷みが伴います。これを意味あるものに結びつけなければ、戦略は機能しません。
夏までにダイエットする!という目標も、ダイエットの結果何が起きてどういう気持になるのかがイメージできなければ行動を起こせませんね。
長期的な「理想」と短期・中期的な「最低限」を使い分ける
DXに限らず、大きな目標を立てるとき全般におけるよくある間違いは、理想と最低限を区別しないことです。
理想というのは「達成できれば理想的なもの」最低限というのは「最低限達成しなくてはならないもの」
リソースの不足している私たちにとっては、最低限の目標のみをなんとか達成していくというのが現実になるでしょう。これを混同してしまうと、リソースが分散してしまい、しなくてはならないことが達成できなくなってしまいます。
DXにおいても同様で、明確に理想と最低限を区別しなくてはなりません。
特に中小企業においては、最初からまともな戦略を立てることが難しい上、その戦略さえも大きな変更を迫られることが多いです。そもそも、3-5年スパンでの大きなビジョンを語る場合、今存在しないリソースを前提に戦略が立てられることがほとんどではないでしょうか。
しかしながら、スタッフをワクワクさせ、会社を変革に導くビジョンは必要です。
ですから、現実的な方法として
長期的な「理想」と短期・中期的な「最低限」を両方設定する
というやり方になってきます。
もちろん、長期の目標でも最低限を設定したり、短期的・中期的な「理想」を設定してもいいですが、長期の理想と短期・中期の最低限は絶対に設定してください。
完璧な戦略はありえないが、示し続けることが大事
戦略を作るとき、ついついのめり込んで、「完璧な戦略」を突き詰めようとしてしまうことがあります。
ですが、私たちの置かれた状況においては、完璧など望むべくもありません。
経験も、情報も、リソースも、なにもかもが足りなさすぎる。かといって、十分に余裕をもたせた戦略を考えようとすると、どうにも魅力がなくなっていく。
戦略を投げ捨ててはそもそも会社としての身動きが取れなくなりますから、それはありえません。
ですから、まずは「次善」を目指しましょう。
その上で、状況の変化に応じてより魅力的で現実的になるように常に修正し、何度でも示し続けることが基本になります。
組織体制や評価制度の変更を視野に入れる
戦略を考えるとき、必ずすべきことが、「組織体制や評価制度の変更」を想定することです。
DX戦略というのは会社の在り方を変えさえしていきますから、当然組織や評価は変更を余儀なくされます。
というか、正直な話「システム的な計画」よりも「人事の計画」の方がDXを実現する上では重要ではないかと思います。組織がDXを望めば自ずからDXが動き出しますが、組織の在り方が変わらなければ、DXは決して実現されないからです。
目先のツールやシステムに惑わされず、会社の中心である人をどうするのかについて戦略を考えてください。
「戦略ができた」といえる状態は?
最後に、どこまでいったら「戦略ができた」といえるか考えてみましょう。
先程お伝えしたとおり、戦略は常に修正し続けるものであり、完璧である必要はありません。最低限の要素があればいい。
組織を導くための魅力のある長期的な「理想」としてのビジョンは必要です。また、直近の目標設定につながる、ある程度具体的な「最低限達成しなくてはならない」マイルストーンも必要です。
「戦略ができた」というための最低限の条件は、この2つが組織の誰の目から見てもはっきりわかる状態になったときだと言えるでしょう。
アウトプットの形は様々なものが考えられます。どこまでを最低限とみなすかは難しいですが、忙しい中でとりあえず形にする、ということを考えると、
- ビジョンを魅力的に伝えるためのスライド
- マイルストーンをわかりやすく伝えるための計画表やスプレッドシート
くらいが最低限なのではないかと思います。もちろん、必要に応じて色々工夫していってください。
DX戦略の作り方
アウトプットの形がある程度イメージできたので、次は具体的な戦略の作り方をステップバイステップで見ていきましょう。
ミッション・ビジョンを再確認する
ミッション・ビジョンがはっきりしていれば難しいことはありません。
ただし、ビジョンに関してはDXを考える際に変化があるでしょうから、それを踏まえつつ現在どのような未来を共有しているのかをまずはしっかり確認してください。
また、ミッションの中に現代の環境にそぐわない「手段」が含まれているような場合も、修正が必要かもしれません。
例:~を通じて~を実現する
ミッション・ビジョンがない場合は、私はかなりリスキーだと思います。実際、私の場合は、経営層にはたらきかけてミッション・ビジョンを明確にしてもらうところからはじめました。
起業をしているわけですから、大枠で共有されている想いはあるはずで、何らかの形で作り上げる事自体は不可能ではないと思います。
スタッフ、そして顧客が共感できる言葉であれば機能します。どんなに立派な言葉でも、響かなければ機能しません。
ミッションの定めかたについては様々な書籍や情報がありますから、しっかり調べて進めてください。
最悪、利益を最大化する、とかでも行けなくはないかもしれません。会社の文化を変えるだけのエネルギーが生み出せるかはわかりませんが。
夢いっぱいのビジョン(理想)をブレストする
これはもう、大いに楽しんでやってください。冗談半分で大きなことを言ってもいいです。ブレストですから。
ミッションがよければ、会社の在り方をゼロベースで問いなおせることもあります。
いつ、どこで、といったことはあまり考えず、とにかく「こうなればいいな」ということを出していき、少なくとも経営陣で「こうなりたい!」という気持ちを共有できるところまで行ってください。
これができないと、DXを推進するための最初のエンジンが動きません。
現状把握や競合調査をして、直近の課題(と改善点)をリストアップし、理想と最低限を区別する
夢の後は現実です。
こっちは、社内の業務プロセスを精査したり、競合の調査をしたりする必要があるので、それなりに工数と時間がかかります。
すでに明確になっている部分もあるかもしれませんが、思いつくものだけで満足せず、潜在的な課題や改善点を可能な限り明確にしてください。ここでは、細かくても可能な限りリスト化していきます。
また、可能であれば先程夢いっぱいに語ったビジョンを念頭に、実現までのギャップを書き出していくといいです。
そして、一通り出していきながら、それぞれの課題をより本質的な課題に紐づけていきます。そして解決方法を暫定的に紐付け、目標にしていきます。
ある程度課題が大目標にまとまってきたら、あとは理想と最低限の区別です。
その目標が、ミッションを実現する上で「最低限必要なこと」であれば、最低限。
「あればいい」ものであれば「理想」です。
その配下の目標(や課題)に対しても同様で、親の目標を達成するために「やらなければならない」のか「やらなくても最悪大丈夫」なのか。これを判定し、一覧表の横に書き入れていってください。
どのような会社の文化や価値観を作りたいのか経営陣で合意する
夢と現実が見えてきたら、それを現実にする「人の集まり」に目を向けましょう。
夢に、そして目の前の目標にたどり着くために、どのような文化や価値観が必要なのか。理想的にはどうなっていたいのか。
こうしたことを、具体的な事例を考えながら社内で合意していきます。
場合によっては、行動指針のような形で明文化したり、望ましい行動や良くない行動を具体化したりしてもいいと思います。
とにかく、ちゃんと現実的に会社全体に浸透するようなものを、少なくとも経営層では合意してください。
長期的な理想を固める
全体像が見えたはずなので、会社全体に発表する長期的な「理想」、わくわくするような「ビジョン」を正式に固めます。
時間軸を持ち出しても構いませんが、今年中とかの短めの時間軸はやめておいたほうが無難かな、と想います。それがあまりに大きいと、わくわく感よりも実現の難しさ、大変さに目が行ってしまう可能性が高いので。
短中期的な課題と解決策の優先順位付けをする
短中期的な課題に「理想」と「最低限」の区別は着けていましたが、具体的な優先順位はこの時点ではついていません。また、課題は明確であるものの、具体的にどのようなDXの施策を行っていくのかも特に決まっていません。
デジタイズ→デジタライズ→DXを意識して、課題解決のための大枠のマイルストーンを設定していきましょう。そして、ある程度時間軸を持ち出しつつ、いつまでにどういう優先順位で達成していくのかをざっくり書き出します。
後のステップでもう少し細かく詰めるので、ざっくりで構いません。
DXを含めた会社のすべてのプロジェクトの優先順位をつける
会社全体の変革を実現するには、DX施策だけで優先順位を決めても話になりません。
DXは、最終的にはほぼすべての業務に影響します。ですから、会社全体のあらゆるプロジェクトを並べ、それらとDX施策を優先順位付けしなくてはなりません。
これはかなり骨が折れる作業である上、各部署からすれば計画に水をさされる格好になるため、非常に揉めやすいです。会社のビジョンをしっかり共有しながら、落ち着いて優先順位をつけてください。
あまり細かく踏み込むと終わらなくなる上、不足部分はどうせまた議論することになるので、とりあえずざっくりQとか年単位のレベルの目標を並べて、それらの間で優先順位づけすると良いでしょう。
年単位、Q単位でのマイルストーンを置く
最後に、年単位、Q単位での具体的なマイルストーンを置いていきます。ここでは、DX施策以外のプロジェクトも含めて行われます。各部署の計画をまずもらってきて、DX施策とぶつかる部分を決められた優先順位に基づいて調整していく感じですね。
誰かがたたき台を作って、事前に各部署と調整しつつ、最終的な合意を導くMTGをします。
ぶっちゃけ、すごく大変です。
月単位とか週単位での目標レベルになっていくと、戦略というより手段、つまり戦術に近づいていきます。あまり細かくなりすぎないように注意してください。
計画のための計画をしておく
DXに限らず、計画は定期的に修正が必要です。そのための時間をバッファとして必ず計画に入れておきましょう。
また、「プロジェクト管理ツール」などでごまかしていたツール選定などは選定自体に時間がかかるので、選定やDXを進めて見てからの計画修正の時間を含めて計画に入れておきましょう。
以上が、戦略を作るためのステップでした。
DX戦略を成功させるためのポイント
最後に、戦略を作り、実行していく上でのポイントをお伝えします。
優先順位付けを徹底し、キーパーソンのリソースをしっかりと確保すること
最初に紹介した以下の記事でも詳しく書いていますが、リソースの確保は本当に重要です。
中小企業の多くは基本的にDX担当者も「兼任」であることがほとんど。新たに何かを始めるときは、必ず以前からの業務がそのまま残ることになります。
そして、そうした業務のほとんどは「ないとまずいもの」であることが多いので、結果としてただ業務量が増えるだけ、ということがザラにあります。
自分を含め、DX推進の核となる人のリソースは優先順位付けの段階で事前に確保しておきましょう。
また、可能であれば予算など、工数以外のリソースも確保できると望ましいです。
理想と最低限を徹底的に区別し続けること
DX施策を実施していると発生してくるのが、「よく考えたら最低限じゃないけど今やったほうが早い業務」です。
たとえば、スタッフから質問された「このやり方知ってる?」に詳しく回答してしまう。たとえば、システムのUI上の「できればいいな」の改善点を延々と実装に挑戦してしまう。もう、毎日のように発生します。
そもそも、DXの施策の中では「やってみないとわからない」類のことがとてもたくさんあって、さらに「やってみたら一瞬で終わる」というタイプのものもかなりあります。
ですから、「こうできたらいいんだけどな~…ちょっとやってみよう」が怒涛のように押し寄せてくるのです。
このときに重要なのが、タスクを作る時点で理想と最低限を徹底して区別しておくこと。そして、新しく思いついたことがあれば、必ずタスクとして登録し、理想なのか最低限なのかを書き入れておくことです。
理想であれば、切羽詰まっているならやってる時間はないですし、多少余裕があるなら「一当てして」ダメならやめる、という線を先に引いておくことです。
これは、自分ひとりの話ではなく、プロジェクト全体のお話です。ですから、定例のMTGで進捗確認を行う際、必ずプロジェクト管理ツール上で重要な目標とタスクを確認して、どこからどこまでが最低限なのか、どのタスクはどこまでコストをかけてもいいのか、そういうことを、しっかりと認識あわせし続けることが肝心です。
もちろん、プロジェクト管理ツール上での優先順位の確認を常に行える体制にしておくことは必須です。
とにかく最低限DXを許容できる雰囲気ができるまでは無理に推し進めないこと
どんなにしっかり計画しても、スタッフはシステムではありませんから、感情的な反応で必ず予想外のことが起きます。
そして、何度も言いますが遠足は一番足の遅い人に合わせて進みます。
反発の強い人を切り捨てる予定がないのであれば、とにかくDXへの許容が最低限ある状態を作り出すことが重要です。
現実的な話として、全員「DXに対して意欲的」な状態というのはほぼありえません。それどころか、過半数がDXに否定的、というのが一般的なスタート地点でしょう。
とにかくシステムではなく人を見ること。
これを怠ってしまうと、DXは決してうまくいきません。
もちろん、ある程度は力押しも必要ですし、協力的なスタッフでさえためらうような大きな変化を伴うこともあります。そうした状況を問題なく乗り越えるために、フォローアップ体制を整え、徹底的に雰囲気づくりをしていくこと。これが重要です。
体制づくりについては、以下の記事も参考にしてください。
面倒でも計画を修正し続ける
人を見ていると、だいたい計画がずれます。計画がずれると、修正がとても大変です。
それが続くと、どんどんストレスが溜まってきて無理に推し進めたくなりますよね。
わかります。もう心の底から同意しかありません。
しかしながら、そこでゴリ押しをしてしまうと、だいたいうまくいきません。悲しいことに。ですから、毎週のように計画の微調整に時間を割き続けてください。
優先順位付けも含めて、計画の修正というのは本当に大事な上、手戻りをなくせることなどを考えると費用対効果も高いので、目安としては仕事時間の1割~2割くらいを費やしてももとが取れます。
そのくらい、作業の無駄は常に発生し、プロセスの順序は非常に重要なのです。
かんたんなところから始めること
人を見るとわかりますが、基本的にいきなり難しいことをやるというのはやめましょう。
他の記事でも言及していますが、DXへの拒否感が色濃い状況では、業務のオペレーションが変わってしまうようなものは避けましょう。
ただ業務が楽になるようなルーティンの自動化や効率化を最初に持ってきて、DXのメリットを実感してもらうところから始めるのが望ましいです。
「インプット」部分の自動化や効率化、習慣化を徹底すること
ようやくDXをやっていこうという雰囲気になっても、今までと違うやり方に対して人は拒否反応を起こします。
ましてや、経営やマネジメント、マーケティングに必要だから、といって、これまで入力していなかったような情報までたくさん入力させられることになったら、基本的には嫌な顔をされます。
そして、意図的かどうかは置いておいて、必然的に漏れが出始めます。
ですが、情報さえなんとか入ってしまえば後からいくらでも活用の道が開ける。今後の適応力や柔軟性を考えると、ある程度のインプットは確保しておきたいところ。
これを解決するためには、基本的には徹底的に自動化・効率化していくことです。顧客情報が自動的に入る。マクロを組んでボタンを押すだけにする。ショートカットキーで操作を簡単にする。こうしたことの積み重ねで、少なくとも「今までの業務よりはマシ」な状態を作り上げてください。
どうしても難しいときは、難しくても目的を何度も説明して、あとは習慣化するまで辛抱強く入力のお願いと入力状態のチェックを続けていくしかありません。そうして、入力するのが当たり前の状態を作り上げることが重要です。
リソースに余裕が出てきたら、採用や外注を考えること
おそらくほとんどの会社では、長期的な戦略を実行する上で必要なリソースは現時点では足りていないはずです。ですから、ほぼ必ず採用か外注が必要になります。
ある程度DXが進んでこればリソースにも余裕が出てきているはずですから、それを使って予算を組み、スタッフやパートナーを雇いましょう。
これについても、以下の記事を参考にしていただけると幸いです。
基本的には採用が望ましく、外注するのであればシステム開発など技術的な部分にとどめておくのが望ましいでしょう。
トップダウン・ボトムアップ両面で進めていくこと
DXでありがちなのが、トップダウンでゴリゴリ進めていくタイプです。これも必ず必要な要素なのですが、これだけでは組織は変わりません。
ボトムアップも必ず必要です。そうなるように、環境を作り上げてください。
やはり重要なのは人を見ることであり、システムではありません。
そのためにも、徹底的にフィードバックを収集し続けてください。また、あらゆるチームに協力者を配置し、能動的な動きが広がっていくように組織づくりをしてください。
常に計画を修正し続けること
大事なことなので何度でもいいますが、とにかく計画には常に修正がつきものです。
次善を目指し、計画を立て、可能な限り実行し、不可能であれば修正する。
この作業は、非常に脳のリソースを消費するので朝方に行うと良いでしょう。これを徹底的に続けられるかどうかが、DXが最後まで走りきれるかどうかの「あなたの意志が及び範囲での」分水嶺になるでしょう。
DXを進めていく上での失敗を避けるために、以下の記事も参考にしてください!
いますぐできること
-
進め方の記事を読む
-
わくわくするような理想的なDXのビジョンをブレストする
-
最低限改善すべき課題をリストアップする
-
戦略のたたき台や直近の計画を作ってみる
-
経営レベルでコミュニケーションを取る
まとめ
以上、DX戦略の作り方でした。
DX戦略は…
-
会社のミッションに向ってDXするための大きな視点での計画
-
会社全体を変えていく上でも、効率的にDXをする上でも必要
DX戦略を作るには…
-
ミッション・ビジョンを再確認する
-
ミッションを理想的な形で実現するための夢いっぱいのビジョンをブレストする
-
現状把握や競合調査をして、直近の課題(と改善点)をリストアップする
-
どのような会社の文化や価値観を作りたいのか経営陣で合意する
-
長期的な理想を固める
-
短中期的な課題の優先順位付けをする
-
長期的な理想と単中期的な課題を踏まえて、DXを含めた会社のすべてのプロジェクトの優先順位をつける
-
年単位、Q単位でのマイルストーンを置く
-
プロジェクトの優先順位を見ながら、経営会議でマイルストーンを合意する
DX戦略を成功させるには…
-
優先順位付けを徹底し、キーマンのリソースをしっかりと確保すること
-
理想と最低限を徹底的に区別し続けること
-
とにかく最低限DXを許容できる雰囲気ができるまでは無理に推し進めないこと
-
かんたんなところから始めること
-
「インプット」部分の自動化や効率化、習慣化を徹底すること
-
リソースに余裕が出てきたら、採用や外注を考えること
-
トップダウン・ボトムアップ両面で進めていくこと
-
常にフィードバックを集め続けること
-
常に計画を修正し続けること
といった感じです。
長くなりましたが、今回はここまで。少しでもお役に立っていれば幸いです。
ひとりDX全体のガイドが必要な場合は、ひとりDXへの道を参考にしてください。
よいDXを!